《いや》だが、聞けば何か此方《こちら》の姉《ねえ》さんは元|武士《さむれえ》のお嬢さんで、今は御運が悪くって山家へ這入って居る様子だが、彼の姉さんを嫁に貰《もれ》えてえが傳次お前は同じ村に居るなら相談して貰いてえと頼まれましたが、そうすれば弟御様《おとゝごさま》は一緒に引取り、先方《むこう》で世話をしようと云う、お前さんも弟様《にいさん》も仕合《しやあ》せで、此の上もねえ結構な事、お前さんの為を思って私《わちき》は相談に来たんだが、早速お話になるよう善は急げだが何《ど》うでげしょう」
やま「まことに御親切は有難うございますが、私《わたくし》の身の上は伯父に任して居りますから、伯父さえ得心なれば私は何うでも宜《よ》いので」
傳「へえ伯父さんあの多右衞門さんでげすかえ、へえ然《そ》うで、堅い方で、長い茶の羽織を着て居るお人かね、時々逢います、あの伯父さんさえ得心なれば宜しいの、宜しい、左様なら」
と直《すぐ》に伯父の処へ行《ゆ》きまして。
傳「へえ御免なさい」
多「はい何方《どちら》から、さア此方《こちら》へ」
傳「へえ私《わっち》は廣藏親分の処に居ります、傳次てえ不調法者で」
多「左様で御ざりやすか、御近所に居りましても碌にお言葉も交《かわ》しませんで、何分不調法者で、此の後《ご》ともお心安く願います」
傳「へえ私《わっち》も何分お心易く願います、就《つ》いてはね、今|姉《ねえ》さんの処へ往ったのでげすが……あなたには姪御《めいご》さんでありますね」
多「へえ、おやまに」
傳「へえ姪御さんに逢ってお話をした処が、伯父さんさえ得心になれば宜《い》いと云う嫁の口が出来たので、誠に良《い》い口で、桑名川村の柳田典藏と云う大した立派な武士《さむれえ》だが、運が悪いとは云いながら此方《こっち》へ来て田地や何かも余程有り、また是から段々|殖《ふや》そうという売卜《うらない》に手習《てなれえ》の師匠に医者の三点張と云う此のくらい結構な事は有りませんが、彼処《あすこ》へお遣《や》りなすっては何うで、弟御《おとゝご》ぐるみ引取ると云うので、随分お為になる処でございますが」
多「おやまが貴方《あなた》に御挨拶致すに伯父が得心なれば構わぬと言いましたか」
傳「えゝ言いました」
多「何うも自分ではお断りが仕憎《しにく》いから、大概の事は私《わし》の処へ行って相談して呉れと、まず言抜《いいぬ
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