んで、両肩の脇へ一寸《ちょっと》挟みまして、先をぱらりと下げて居ります。懐には合口《あいくち》をのんで居る位に心掛けて、怪しい者が来ると脊負《しょっ》て居る包を放《は》ねて置いて、懐中の合口を引抜くと云う事で始終|山国《やまぐに》を歩くから油断はしません。よく旅慣れて居るもので御座ります。一体飛騨は医者と薬屋が少ないので薬が能《よ》く売れますから、寒いのも厭《いと》わずになだれ下りに来まして。
薬屋清「やア御免なさいませ」
又「おやこれはお珍らしい……去年お泊りの清兵衞さんがお出《いで》なすった、さア奥へお通りなさい、いやどうも能く」
清「誠に、是れははや、去年は来《け》まして、えゝ長《なが》えこと御厄介ねなり居《お》りみした、いやもう二度《ねど》と再び山坂を越えて斯《こ》う云う所へは来《け》ますまいと思うて居りみすが、又慾と二人連れで来《け》ました……おや婆様この前は御厄介になりみした、もうとても/\この山は下りは楽だが、登りと云うたら足も腰もめきり/\と致して、やアどうも草臥《くたぶ》れました、とても/\」
又「今夜はお泊りでげしょう」
清「いや然《そ》うでない、今日は切《せ》みて落合まで行《よ》く積《つもり》で」
又「婆さん今日は落合までいらっしゃるてえが仕方が無いのう、まア今夜はお泊りなさいな、この頃は米が有ります、それに良い酒もありますからお泊りなさい、お裙分《すそわけ》をしますから」
清「いや然うは往《よ》きませぬ、何《ど》うでも彼《こ》うでも落合まで未《ま》だ日も高いから行《よ》こ積りで」
又「それは仕方が無いなア、然うでしょうがまア一杯飲んで」
清「いゝや……」
又「そんな事を云わずに、これ婆さん早く一杯…」
婆「能くお出でなさいました、去年は誠にお草々《そう/\》をしたって昨宵《ゆうべ》もお噂をして居りました」
又「清兵衞さん、去年お泊《とまり》の時に、私の忰は高岡の大工町の宗慈寺と云う寺に這入って、弟子に成って居ると云う貴方《あなた》のお話が有ったが、眞達と云う忰は達者で居りますかな」
清「いや何うも是《こり》ゃはや、それを云おう/\と思って来《け》たが、お前《ま》さん余《あんま》り草臥《くたぶ》れたので忘れてしまったが、いや眞達さんの事に就《つ》いてはえらい事になりみした」
又「へいどうか成りましたか」
清「いやもうらちくち[#「らちくち」に傍
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