露《ひろめ》もしてあったので、近辺の者も皆得心して爺さん婆さんを見送ったから、つい其の儘ずる/\べったりに二代目又九郎夫婦に成ったのでございます、あなた恰《ちょう》ど今年で二十三年になるが、住めば都と云う譬《たとえ》の通りで、蕨を食って此処に斯う遣《や》って潜んで居ますがねえ、随分苦労をしましたよ」
永「そうかねえ、苦労の果じゃがら万事に届く訳じゃのう、でも内儀《かみ》さんと真実|思合《おもいお》うての中じゃから、斯うして此の山の中に住んで居るとは、情合《じょうあい》だね」
又「情合だって婆さんも私も厭《いや》だったが、外《ほか》に行《ゆ》く所がなし詮方《しかた》がないから居たので」
永「じゃア富山の稲荷町で良い商人《あきんど》で有ったろうが、女房子はお前の此処に居る事を知らぬかえ、此の飛騨へは富山の方の者が滅多に来ないから知らぬのじゃなア」
又「えゝそれは私が家を出てから行方が知れぬと云って、家内が心配して亡《なく》なり、それから続いて家《うち》は潰れる様な訳で、忰《せがれ》が一人ありましたが、その忰平太郎と云う者は、仕様がなくって到頭お寺様か何かへ貰われて仕まったと云う事を、ぼんやり聞いて居りましたが、妙な事で、去年富山の薬屋、それお前さん反魂丹《はんごんたん》を売る清兵衞《せいべえ》さんと云う人が家へ来て、一晩泊って段々話を聞きました所が、私共の忰は妙な訳でねえ、良い出家に成られそうでございまして、越中の国高岡の大工町にある宗慈寺と云う寺の納所になって、立派な衣を着て居る[#「着て居る」は底本では「来て居る」]そうで」
永「はアそれは妙な事だなア、大工町《だいくまち》の宗慈寺と云うは真言寺じゃアないか」
又「はい真言寺で」
永「そこにお前の忰が出家を遂《と》げて居るのかえ」
又「はい名は何とか云ったなア、婆さんお前《めえ》知って居るか、あゝそうよ……いゝや、眞達と云う名の納所でございます」
永「左様か」
とじろりっと横眼でお梅と顔を見合わした計《ばか》り、ぎっくり胸にこたえて、流石《さすが》の悪党永禪和尚も、これは飛んだ所へ泊ったと思いました。
二十六
又「それで婆さんの云うのには、前の事をあやまって尋ねて行ったら宜かろうと云いますが、何だか今更親子とも云い難《にく》いと云うのは、女房子を打遣《うっちゃ》って女郎《じょろう》を連れて駈落す
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