日本の小僧
三遊亭円朝
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)定吉《さだきち》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|疋《ぴき》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)オイ/\
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主「定吉《さだきち》や。定「へえお呼びなさいましたか。主「此《こ》の手紙を矢部《やべ》の処《ところ》へ持《も》つて参《まゐ》れ、只《たゞ》置《お》いて来《く》れば宜《い》いんだよ返事は入《い》らないから、さア使賃《つかひちん》に牡丹餅《ぼたもち》を遣《や》らう。小「有《あり》がたう存《ぞん》じます。主「其処《そこ》で食《た》べるなよ、帰《かへ》つて来《き》てから食《た》べなさいな。小「へえ、夫《それ》でも是《これ》を置いて参《まゐ》りますと、栄《えい》どんだの文《ぶん》どんが皆《みんな》食《た》べて終《しま》ひます。主「夫《それ》では何処《どこ》か知《し》れない所へ隠《かく》して置け。小「へえ宜《よろ》しうございます…………何処《どこ》へ隠《かく》さうな、アヽ台所《だいどころ》へ置けば知れないや、下流《したなが》しへ斯《か》う牡丹餅《ぼたもち》を置いて桶《をけ》で蓋《ふた》をしてと、人が見たら蛙《かへる》になるんだよ、宜《い》いかえ人が見たら蛙《かへる》だよ、己《おれ》が見たら牡丹餅《ぼたもち》だよ。と密《そつ》と隠《かく》して出て行《ゆ》くのを主人が見て、アハヽ是《これ》が子供の了簡《れうけん》だな、人が見たら蛙《かへる》とは面白《おもしろ》い、一ツあの牡丹餅《ぼたもち》を引き出して、蛙《かへる》の生《いき》たのを入《い》れて置《おい》たら小僧《こぞう》が帰《かへ》つて来《き》て驚《おどろ》くだらうと、洒落《しやれ》た御主人《ごしゆじん》で、夫《それ》から牡丹餅《ぼたもち》を引出《ひきだ》して終《しま》つて、生きた蛙《かへる》を一|疋《ぴき》投《はふ》り込《こ》んで置《お》きました。処《ところ》へ小「往《いつ》て参《まゐ》りました。主「大《おほ》きに御苦労《ごくらう》だつた、早く牡丹餅《ぼたもち》を食べな。小「へえ、有難《ありがた》う存《ぞん》じます、アヽ此所《こゝ》なら誰《だれ》も知りやアしない桶《をけ》で蓋《ふた》をしてあるから気《き》が附《つ》かない。と開《あ》けて見ると蛙《かへる》が飛《と》び出した。小「アレ、こりやアいけねえ、己《おれ》だよ、オイ/\、ホツ/\、然《そ》んなに飛ぶと餡《あん》が落ちるよ。
底本:「明治の文学 第3巻 三遊亭円朝」筑摩書房
2001(平成13)年8月25日初版第1刷発行
底本の親本:「定本 円朝全集 巻の13」世界文庫
1964(昭和39)年6月発行
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2009年6月19日作成
青空文庫作成ファイル:
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