《はつゆき》やせめて雀《すゞめ》の三|里《り》まで」どころではない雀《すゞめ》が首《くび》つたけになるほど雪が積《つも》りました。其時《そのとき》に俄盲目《にはかめくら》の乞食《こじき》と見えまして、細竹《ほそたけ》の※[#「筑」の「凡」に代えて「卩」、第3水準1−89−60]《つゑ》を突《つ》いて年齢《とし》の頃《ころ》は彼是《かれこれ》五十四五でもあらうかといふ男、見る影もない襤褸《すぼろ》の扮装《なり》で、何《ど》うして負傷《けが》を致《いた》しましたか、尻《しり》を端折《はしよ》つて居《ゐ》る膝《ひざ》の所からダラ/\血が流れて居《を》りまする。ト属《つ》いて来《き》ましたる子供《こぞう》が、五歳《いつゝ》か六歳位《むツつぐらゐ》で色白《いろじろ》の、二重瞼《ふたへまぶた》の可愛《かあい》らしい子でございまするが、生来《はら》からの乞食《こじき》でもありますまいが、世の中の開明《かいめい》に伴《つ》れて、前《ぜん》、贅沢生計《よいくらし》をなすつたお方《かた》といふものは、何《ど》うも零落《おちぶ》れ易《やす》いもので。親父《おやぢ》の膝《ひざ》から、血が流れるのを視《み》て、子「お父《とつ》ちやん痛いかえ、お父《とつ》ちやん痛いかえ。父「アイそれは痛いワ……負傷《けが》をしたんだから……エー最《も》う新入《しんまい》の乞食《こじき》だからの、何処《どこ》が何《ど》うだかさつぱり訳《わけ》が解《わか》らないが、彼《あ》の山下《やました》の突当《つきあた》りの角《かど》の所に大勢《おほぜい》乞食《こじき》が居《ゐ》て、何故《なぜ》己等《おれたち》の縄張《なはば》りの家《うち》を貰《もら》つて歩く、其処《そこ》は己《おれ》の方《はう》で沙汰《さた》をしなければ、貰《もら》ふところでない、といふから、私《わたくし》は新入《しんまい》の乞食《こじき》で何《な》んにも存《ぞん》じませぬ、と云《い》ふのを、大勢《おほぜい》寄《よ》つて集《たか》つて己《おれ》を三つも四つも打《ぶ》ち倒《のめ》しアがつて、揚句《あげく》のはてに突飛《つきと》ばされたが、悪いところに石があつたので、膝《ひざ》を摺剥《すりむ》いて血が大層《たいそう》出るからのう……。子「お父《とつ》ちやん血が大層《たいそう》出るよ。父「アー大層《たいそう》出るか。子「アー大層《たいそう》流れるからね……あのね
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