詰《つま》らねえ事《こと》を腹ア立てやアがつて、たつた一人の血を分けた兄の己《おれ》を置去《おきざ》りにしやアがつてよ、是《こ》れと云《い》ふのも己《おれ》の眼《め》が悪いばつかりだ、あゝ口惜《くや》しい、何《ど》うかしてお竹《たけ》や切《せ》めて此《こ》の眼《め》を片方《かた/\》でも宜《い》いから明けてくんなよ。女房「明けてくんなと云《い》つて、私《わたし》ア医者《いしや》ぢやアなし、そんな無理なことを云《い》つたツて私《わたし》がお前《めへ》の眼《め》を明《あけ》る訳《わけ》にはいかないが、苦しい時の神頼《かみだの》みてえ事も有るから、二人で信心《しん/″\》をして、一生懸命になつたら、また良《い》いお医者《いしや》に出会《であ》ふことも有らうから、夫婦で茅場町《かやばちやう》の薬師《やくし》さまへ信心《しん/″\》をして、三七、二十一|日《にち》断食《だんじき》をして、夜中参《よなかまゐ》りをしたら宜《よ》からう。と是《これ》から一生懸命に信心《しん/″\》を始めました。すると一心《いつしん》が通《とほ》りましてか、満願《まんぐわん》の日に梅喜《ばいき》は疲れ果てゝ賽銭箱《さいせんばこ》の傍《そば》へ打倒《ぶつたふ》れてしまふ中《うち》に、カア/\と黎明《しのゝめ》告《つぐ》る烏《からす》諸共《もろとも》に白々《しら/\》と夜《よ》が明け離《はな》れますと、誰《たれ》やらん傍《そば》へ来《き》て頻《しき》りに揺《ゆ》り起《おこ》すものが有ります。×「梅喜《ばいき》さん/\、こんな処《ところ》に寐《ね》て居《ゐ》ちやアいけないよ、風《かぜ》え引くよ……。梅「はい/\……(眼《め》を擦《こす》り此方《こつち》を見る)×「おや……お前《まい》眼《め》が開《あ》いたぜ。梅「へえゝ……成程《なるほど》……是《これ》は……あゝ(両手《りやうて》を合《あは》せ拝《をが》み)有難《ありがた》う存《ぞん》じます、南無薬師瑠璃光如来《なむやくしるりくわうによらい》、お庇陰《かげ》を以《も》ちまして両眼《りやうがん》とも明《あきら》かになりまして、誠に有難《ありがた》う存《ぞん》じます……成程《なるほど》ウ是《これ》は手でございますか。×「然《さ》うよ。梅「へえゝ巧《うま》く出来《でき》てゐますね。×「お前《まへ》何《ど》うして眼《め》が明《あ》いたんだ。梅「へえ実《じつ》は二十
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