を曳《ひ》いてやらなけりやア何処《どこ》へも往《い》かれめえ、御飯《おまんま》の世話《せわ》から手水場《てうづば》へ往《い》くまで己《おれ》が附《つ》いてツてやるんだ、月給《げつきふ》を取るんぢやアなし、何《な》んぞと云《い》ふと小言《こごと》を云《い》やアがる、兄《あにき》もねえもんだ、兄《あにき》(狸《たぬき》)の腹鼓《はらつゞみ》が聞いて呆《あき》れると吐《ぬか》しやアがるから、やい此《こ》ン畜生《ちくしやう》、手前《てめえ》は懶惰者《なまけもん》でべん/\と遊んでゐるから、何処《どこ》へ奉公《ほうこう》に遣《や》つたつて置いてくれる者もないから、己《おれ》が養《やしな》つて置くからには、己《おれ》の手を曳《ひ》くぐらゐは当然《あたりまい》だ、何《なに》を云《い》やアがるつて立上《たちあが》つて戸外《そと》へ出たが、己《おれ》も眼《め》が見えないから追掛《おつか》けて出ても仕様《しやう》はなし、あんな奴《やつ》にまで馬鹿《ばか》にされると腹を立つのを、岩田屋《いはたや》の御夫婦《ごふうふ》が心配して、なに松《まつ》さんだつて家《うち》へ帰《かへ》れば姉《あね》さんに小言《こごと》を云《い》はれるから、帰《かへ》つて来《く》るに違《ちが》ひない、なに彼奴《あいつ》は銭《ぜに》を持《も》つてゐる気遣《きづか》ひは有《あり》ませんから、停車場《ステイシヨン》へ往《い》つたツて切符を買ふ手当《てあて》もありませんから、いまに帰《かへ》りませうと待つたが、帰《かへ》つて来《こ》ねえ、処《ところ》で悪い顔もしず、御飯《ごはん》の世話《せわ》から床《とこ》の揚下《あげおろ》しまで岩田屋《いはたや》さん御夫婦《ごふうふ》が為《し》て下《くだ》さるんだが、宜《い》い気《き》になつて其様《そん》なことがさせられるかさせられねえか考へて見ねえ、とてもそれなりに世話《せわ》に成《な》つてもゐられねえから帰《かへ》つて来《き》たのよ。女房「本当《ほんたう》に困るぢやアないかね、私《わたし》も義理《ぎり》ある間《なか》だから小言《こごと》も云《い》へないが、たつた一人の兄《にい》さんを置去《おきざ》りにして帰《かへ》つて来《く》るなんて……なに屹度《きつと》早晩《いま》にぶらりと帰《かへ》つて来《く》るのが落《おち》だらうが、嚥《さぞ》腹が立つたらうね。梅「腹が立つたつて立たねえツてえ、
前へ 次へ
全15ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング