しまいと心得て、人間の道にあるまじき、人の預けた金を遣《つか》い、預かった覚えはないと云ったのは重々《じゅう/″\》申訳《もうしわけ》がないが、只今早速御返金に及ぶから、何卒《どうか》男と見掛けてお頼み申すから棟梁さん内聞《ないぶん》にして呉れまいか」
清「そりゃア宜《よろ》しゅうございますが、品《しな》に寄ったら訴えなければならねえが、旦那、無利息じゃアありますまい、貴方《あなた》も銀行や株式の株を幾許《いくら》か持っていなさるお身の上だから、預金《あずけきん》の取扱《とりあつか》い方《かた》も御存じでしょうが、此の金を預けてから七年になるから、七|朱《しゅ》にしても、千四百七十円になりますが、利息を付けて貰わなけりゃアならねえぜ」
丈「至極《しごく》御尤《ごもっと》もでござるから、只今|直《す》ぐに上げます、少しお待ち下さい」
 と直《す》ぐに立って蔵へまいり、三千円の外《ほか》に千四百七十円耳を揃《そろ》えて持ってまいり、
丈「へい、どうかお受取り下さい」
 と出しましたから、数《かず》を改めて、
清「重さんおしまいなさい」
 と云うから、重二郎は予《かね》て用意をして来た風呂敷へ金包《かねづゝみ》を包んで腰へしっかり縛り付けました。
清「旦那金は確《たしか》に受取りましたから証書はお返し申しますが、金ばかりじゃア済みますめえぜ」
丈「三千円返して、証文の面《おもて》に利子を付けるという事はないが、此方《こちら》の身に過《あやま》りがあるから、利子まで付けて遣《や》ったが、外《ほか》に何があるえ」
清「外《ほか》に何も貰うものはねえが、此の金を預けた清水助右衞門さんの屍骸《しがい》を返して貰《もれ》えてえ」
 と云われて春見は恟《びっく》りして思わず後《あと》へ下《さが》ると、清次は膝を進ませて、
「お前さんが七年|前《あと》に清水さんを殺した其の白骨でも出さなけりゃア、跡に残った女房子《にょうぼこ》が七回忌になりやしても、訪《と》い吊《とむら》いも出来やせん」
 と云いながら、ぐるりっと上《あ》げ胡坐《あぐら》を掻きましたが、此の納《おさま》りは何《ど》う相成りましょうか、次回までお預かりにいたしましょう。

     八

 引続きまする西洋の人情噺も、此の一席で満尾《まんび》になります故《ゆえ》、くだ/\しい所は省きまして、善人が栄え、悪人が亡《ほろ》び、可愛《かわ》いゝ同志が夫婦になり、失いました宝が出るという勧善懲悪《かんぜんちょうあく》の脚色《しくみ》は芝居でも草双紙《くさぞうし》でも同じ事で、別して芝居などは早分《はやわか》りがいたしますが、朝幕《あさまく》で紛失した宝物《たからもの》を、一日掛って詮議《せんぎ》を致し、夕方には屹度《きっと》出て、めでたし/\と云って打出しになりますから、皆様も御安心でお帰りになりますが、何も御見物と狂言中の人と親類でも何《なん》でもないに、そこが勧善懲悪と云って妙なもので、善人が苦しむ計《ばか》りで悪人が終《しま》いまで無事でいましては御安心が出来ません。然《しか》し善という事はむずかしいもので、悪事には兎角《とかく》染《そま》り易《やす》いものでござります。彼《か》の春見丈助利秋は元八百石も領《りょう》しておりました立派な侍でありながら、利慾《りよく》のため人を殺して奪いました其の金で、悪運強く霊岸島川口町で大《たい》した身代になりましたが、悪事というものは、何《ど》のように隠しても隠し遂《おお》せられないもので、どうして彼《あ》の人があのように金が出来たろう、何《なん》だか訝《おか》しいねえ、此の頃《ごろ》こういう事を聞いたが、万一《ひょっと》したらあんな奴が泥坊じゃアないか知らんと、話しますを聞いた奴は、直《すぐ》にそれを泥坊だと云い伝え、又それから聞いた奴は尾に鰭《ひれ》をつけて、彼《あ》れは大泥坊で手下が三百人もあるなどと云うと、それから探索掛《たんさくがゝり》の耳になって、調べられると云うようになるもので、天に口なし、人を以《もっ》て云わしむるという譬《たとえ》の通りでございます。彼《か》の春見は清水助右衞門の悴《せがれ》重二郎がいう通り、利子まで添えて三千円の金を返したのは、横着者《おうちゃくもの》ながら、どうか此の事を内聞《ないぶん》にして貰いたいと、それがため別に身代に障《さわ》る程の金高《きんだか》でもありませんから、清く出しましたが、家根屋《やねや》の清次が助右衞門の死骸を出せと云うに驚き内心には何《ど》うして清次が彼《か》の助右衞門を殺した事を知っているかと思い、身を慄《ふる》わせて面色《めんしょく》変り、後《うしろ》の方へ退《さが》りながら小声になって。
丈「清《せい》さん、あゝ悪い事は出来ないものだ、其の申訳《もうしわけ》は春見丈助必らず致しま
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