も》う少々貸して置いて下さいまし」
損「其方《そっち》も困るだろうが私も困らアね、引続いて長い間|留《と》めて置き、蒲団は汚《よご》し料銭は少しも払わず、何《ど》うにも斯《こ》うにも仕方がないから、私《わたしゃ》ア蒲団を持って往《ゆ》きますよ」
ま「何卒《どうぞ》御勘弁を願います」
損「勘弁は出来ません」
と云いながら、ずか/\と慈悲容赦《なさけようしゃ》も荒々しく、二枚折《にまいおり》の反故張屏風《ほごばりびょうぶ》を開け、母の掛けて居りまする四布蒲団《よのぶとん》を取りにかゝりますから、
重「何をなさる、被《き》て居《い》るものを取ればまるで追剥《おいはぎ》ですなア」
損「これ何をいうのだ、私の物を私が持って往《ゆ》くのに追剥という事があるものか、料銭が溜《たま》ったから蒲団を持って往くのが追剥ぎか」
重「誠に相済みません、何卒《どうぞ》御勘弁を」
と云っているのを、同じ長屋にいるお虎《とら》という婆さんが見兼《みかね》て出てまいり、
虎「まアお待ちなさいな、斯《こ》うやってお母《っか》さんが眼が悪く、兄《にい》さんが一生懸命に人力を挽《ひ》いて稼いでも歯代《はだい》がたまって困ると云うくらいだから、料銭の払えないのは尤《もっと》もな話だのに、可愛《かわい》そうに病人が被《き》ているものを剥《は》いで往《ゆ》くとは余《あんま》り慈悲《なさけ》ないじゃないか」
損「お虎さん、お前さんは知らないのだが、蒲団を貸して二ヶ月料銭を払わないから、損料代が四円八十銭溜って居りますよ」
重「へい、そんなになりますかえ」
損「なりますとも、一晩《ひとばん》四布《よの》が五銭に、三布布団《みのぶとん》が三銭、〆《しめ》八銭、三八《さんぱ》二円|四十銭《しじっせん》が二ヶ月で四円八十銭に成りますわねえ」
虎「高いねえ、こんな穢《きたな》い布団でかえ」
損「穢い布団じゃアなかったのだが、段々此の人達が被古《きふる》して汚《よご》したので、前は新しかったのです」
虎「成程|御尤《ごもっと》もですが、其処《そこ》がお話合《はなしあい》で、私も斯《こ》うやって仲へ入り、口を利いたもんだから三円だけ立替《たてか》えて上げたら、お前さん此の布団を貸してやって下さるかえ、此の汚れたのは持って帰って小綺麗《こぎれい》なのと取替えて持って来て貸して下さるか」
損「それは料銭さえ払って下されば貸し
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