商法でも仕ようと思い、坂府《さかふ》へ来た所、坂府は知っての通り芸子《げいこ》舞子《まいこ》は美人|揃《ぞろ》い、やさしくって待遇《もてなし》が宜《い》いから、君から貰った三百円の金はちゃ/\ふうちゃに遣《つか》い果《はた》して仕方なく、知らん所へ何時《いつ》まで居るよりも東京へ帰ったら、又どうかなろうと思い、早々《そう/\》東京へ来て、坂本二丁目の知己《しるべ》の許《もと》に同居していたが、君の住所は知れずよ、永くべん/\として居るのも気の毒だから、つい先々月亀島町の裏長屋を借り請《う》け、今じゃア毎夜|鍋焼饂飩《なべやきうどん》を売歩《うりある》く貧窮然《ひんきゅうぜん》たる身の上だが、つい鼻の先の川口町に君が是《こ》れだけの構いをして居るとは知らなかったが、今日はからず標札を見て入って来たのだが、大《たい》した身代になって誠に恐悦《きょうえつ》」
丈「あれからぐっと運が向き、為《す》る事なす事|間《ま》がよく、是まで苦もなく仕上げたが、見掛けは立派でも内幕は皆|機繰《からくり》だから、これが本当の見掛倒しだ」
又「金は無いたって、あるたって、表構《おもてがま》えで是だけにやってるのだから大《たい》したものだねえ、時に暫《しばら》く無心を云わなかったが、どうか君百円ばかりちょっと直《すぐ》に貸して呉れ給え、斯《こ》うやって何時《いつ》まで鍋焼饂飩も売っては居《お》られんじゃないか、これから君が後立《うしろだ》てになり、何か商法の工夫をして、宜《よ》かろうと思うものを立派に開店して、奉公人でも使うような商人にして下せえな」
丈「商人にして呉れろって、君には三百円という金を与えたのに、残らず遣《つか》ってしまい、帰って来て困るから資本《もとで》を呉れろとは、負《おぶ》えば抱かろうと云うようなもので、それじア誠に無理じゃアないか」
又「なにが、無理だと、何処《どこ》が無理だえ」
丈「そんなに大きな声をしなくても宜《よろ》しいじゃねえか」
又「君が是だけの構《かまえ》をして居《い》るに、僕が鍋焼饂飩を売って歩き、成程金を遣《つか》ったから困るのは自業自得とは云うものゝ、君が斯《こ》うなった元はと云えば、清水助右衞門を殺し、三千円の金を取り、其の中《うち》僕は三百円しか頂戴せんじゃねえか、だから千や二千の資本《しほん》を貸して、僕の後立《うしろだて》になっても君が腹の立つ
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