を宅《うち》へ入れる積りですが、当人が厭だと云うかも知れませんが、お前様の血統《ちすじ》だから是非此の家《や》を継《つが》せるより仕方は無いが、嫁が悪いといけないよ、それが本当の子で無いから私が心細いよ、お前さんには身内だから竹は宜《い》いが嫁の根性が悪いと竹さんまで嫁に捲《まか》れて仕舞って、訝《おか》しな了簡に成って親不孝をされた日にア大変だよ、お前さんが長生きをしてお呉んなされば宜いが若《も》し眼でも眠った後《あと》は大変だよ、だから嫁の宜いのが欲しいね」
 金「欲しいたって無いよ、縁ずくだから」
 蓮「裏に居る売卜者《うらないしゃ》の浪人の娘は好《い》い器量だね」
 金「うむ、彼《あれ》は何《ど》うも無いのう、品格と云い、親孝行でな、彼《あ》の娘《こ》に味噌漉《みそこし》を提げさせるのは惜しいものだ、お父《とっ》さんはヨボ/\してえるがまだ其んなに取る年でもないようだが、寒さ橋《ばし》の側へ占いに出るのだが可哀想だのう」
 蓮「あの娘《こ》を貰い度《た》いもんだね」
 金「貰い度いたって先方《むこう》も一人娘だから」
 蓮「其処《そこ》を工夫してさ」
 金「工夫たって一人子《ひとりっこ》だから呉れないよ」
 蓮「私に宜《い》い工夫が有るんです、先方《さき》は大変に困って居る様子だから、可愛がって店賃《たなちん》を負けておやんなさいよ」
 金「店賃を負けるてえ訳にはいかない、地主へ遣《や》らなくっちゃアならないから」
 蓮「成る丈《た》け催促をしないようにおしなさい」
 金「催促するのも、少しは遠慮をして居るのよ」
 蓮「彼《あ》んな親孝行な娘《こ》は有りませんね、浪人ぐるみ引取っても構やアしない」
 金「親付きでか」
 蓮「親付きだって、あの浪人者なら宜いよ、あの浪人者を呼んで、お前さんね、親一人子一人だが、良い子を持ってお仕合せだ、どうせ宅《うち》へ養子をするのだが、甥の竹と云う者が奉公先から下《さが》って来れば宅の養子に成る身の上だが、彼《あれ》に添わしたいように思うが、お前|様《さん》も一人子《ひとりご》だから他《ほか》へ呉れる理由《わけ》にも行《ゆ》くまいから、一緒こたにお成んなさいと云って御覧なさい」
 金「馬鹿ア云え、そんな事が云えるものか、あの浪人は堅い男だ、毎朝板の間へ手を突いて、お早うと丁寧に厳格《こつ/\》した人だが、そんな篦棒《べらぼう》な事を頭を禿《はげ》らかして云えるものか」
 蓮「じゃア斯《こ》う仕ましょう宅《うち》へみいちゃんだのおしげさんだのが綿《わた》摘みの稽古に来ますから、あの娘《こ》にも綿を摘む内職を成さいと云って呼寄せ様じゃアありませんか、幸いすうちゃんが休んで桶が明いてるから」
 金「あゝ云う遠慮深い人だから身装《なり》があの通りだからって寄越すめえ」
 蓮「それは此方《こちら》で貸して手間で差引くといって悉皆《そっく》り私の物を貸して遣って習いに来ればもう占めたもので、内職が出来ても出来なくても、あの娘《こ》のは光沢《つや》が好《よ》くって評判が宜《い》い、是丈《これだけ》揚《あが》ったって手習丈の物はなくても宜いから無闇に手間賃を出してお遣んなさいよ」
 金「夫《それ》は大変な散財だな」
 蓮「夫から段々覚えて来たから前貸だと気を附けてお金子《かね》を貸してやって、ホイ/\云って子の様に可愛がって遣ってお父《とっ》さんが留守の内は私の側に置いて娘《こ》のようにして可愛がって、段々|馴染《なじみ》が深く成るうち一年が二年と年月《としつき》がたつ内に、三年経つと竹が年期が明いて来ますから、丁度宜いねえ二人差向いに成ったら気を利かしてお外《はず》しなさいよ、私はお参りに行《ゆ》くよ、二人置いて行《ゆ》けば、冬なら炬燵《こたつ》が有るから当人同志で旨く成って仕舞い、当人が来たいと云えば宜いじゃアないか」
 金「夫じゃア無理無体にか、併《しか》しあの浪人は堅いから寄越すか知らん、おゝ噂をすれば影だ、ピー/\風でさむさ橋に出て居ても、見て貰い人《て》もないかしてもう帰って来た、帰り際に早いから屹度《きっと》寄るぜ」
 浪「えゝ御免を」
 金「はい」
 浪「留守中誠に有難う存じました、えゝ只今帰りました、清左衞門で」
 金「まア一寸お上《あが》んなさいよ」
 蓮「ちょいとお這入んなさい」
 浪「はい御免を、誠に何《ど》うも両|三日《さんにち》は引続いてお寒い事で、併しながら何日《いつ》も御壮健《おたっしゃ》な事で」
 金「其んな堅い事を云わないでも宜《よろ》しい、お茶を煎《い》れて羊羹《ようかん》でも切んなさい、なに無く成ったえ、何か切んなよ」
 蓮「切んなって切るものは無いよ」
 金「じゃア最中《もなか》でも出しなよ」
 浪「えゝ御内室《ごないしつ》様|私《わたくし》が出ますると娘一人
前へ 次へ
全34ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング