じゃア堪らねえ、ねエ殿様、此方《こちら》へお上《あが》んなさい、長い刀《もの》を一本半分差して斯《こ》ういう家《うち》に上ると身体を横にしなければ這入れませんよ」
武「是は御家内か、私《わし》も酒が嗜きでな、此処を通る度に御亭主が飲んで居る、今|一寸《ちょっと》買物をして見ると矢張《やっぱり》飲んで居て羨しく遂《つい》やる気になりました」
梅「でも汚ない此んな狭い処へ」
喜「宜《い》いから黙ってろ、殿様|此女《これ》の里は白銀町《しろかねちょう》の白旗稲荷《しらはたいなり》の神主の娘ですが、何うしたんだか、亭主思いで、私《わたくし》が酒を飲んでは世話を焼かせますが、能く面倒を見ます」
梅「お止《よ》しよ」
武「では一盃《いっぱい》戴こうか」
喜「お酌をして上げな、大きい盃《もの》で」
武「これは御内儀《ごないぎ》痛み入りますな、お酌で」
梅「誠に何うも召上る物が有りませんで」
武「いや心配してはいかん、却《かえ》って是が宜しい成程是は何うも余程|好《い》い酒を飲むな」
喜「えゝ四方《よも》で、彼家《あすこ》では好い酒を売ります、和泉町《いずみちょう》では彼家ばかりで、番頭が私《わっち》を知ってるので、私が買いに行《ゆ》くと長谷川町の番太が来たって別に調合を仕ないで、一本生《いっぽんぎ》の鬼殺しを呉れますが、酒は自慢で」
武「うむ是は堪らん、では近附《ちかづき》の為に一盃《いっぱい》」
と喜助に差しました。喜助は頭《かしら》を下げ。
喜「へー有難う、おいお梅|此処《こゝ》へ来い酌をして呉れ手前《てめえ》は己に能く酒を飲むな/\てえが立派なお武家様がこんな汚い家《うち》へ這入って来て番太郎と酒を飲合《のみあ》い、殿様のお盃《さかずき》を私《わし》が飲んで其の猪口《ちょく》を洗《そゝ》ぐのは水臭いって殿様が直《すぐ》に召上ると云うのは酒の徳だ」
武「酒には上下の差別をしてはいけない」
喜「洒落《しゃれ》た好い殿様だ、何卒《どうぞ》毎日来て下さいまし、殿様|私《わっち》の為めには大切のお店の番頭が私を贔屓で去年の暮に塩辛を呉れましたが、好い鯛の塩辛で、それと一緒に雲丹《うに》を貰ったんですが、女房《かゝあ》は雲丹をしらねえもんだから、鬼を喰うと間違えました、是は※[#「※」は「うおへん+「臘」のつくりの部分」、486−5]《からすみ》」
武「
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