縫ったり致して居ります」
 金「鼻緒も宜《よ》うございましょうが、家内が綿を紡《つ》むことを覚えて近所の娘子《むすめこ》に教えるので、惠比壽屋《えびすや》だの、布袋屋《ほていや》だの、通り四丁目の棒大《ぼうだい》や何かから頼まれましてお店《たな》の仕事ばかり為《し》ますが余程|宜《い》い手間で、立派な男の手間位には成ります、処が此の節おすみと云う娘《こ》が休んでて桶が明いてますから、教えて上げ度《た》いが、甚《はなは》だ失礼で何うしたら宜かろうなんて、家内《これ》が云いますから、なに失礼な訳は無い、覚えてお父《とっ》さんのお手助けに成れば結構だ、鼻緒を縫ってお在《い》でのようだが、夫《それ》も時々休みが有るようだ、夫から見れば是は毎日の仕事だから少しはお父さんのお手助けに成るかも知れんと考えたんで」
 清「夫は御親切に有難い事で、実は娘も好《よ》い内職を皆さんが御当家へ来て成さるが、何うかして私《わたくし》もあゝいう内職を覚え度《た》いと申して居りますが、何分立派なお嬢さん方の入らっしゃる中へ」
 蓮「いえそんな事を心配してはいけません、尤《もっと》も宅《うち》へ参る娘達《むすめたち》は可なりの処の娘《こ》ですから其ん中へ這入るのだからとお思いなさるのは御尤ですが、私の着物が明いてますから、碌なのじゃアありません私が若い時分に着たので、今は入りませんから上げちまっても宜《よ》いが、失礼ですからお貸し申します、其の内に手間が取れゝば又|拵《こしら》えて上げるように為《し》ますが、是は若い時分に締めた帯で、宅には娘はなし、親類にも女の児《こ》がないから取って置いても仕様が有りませんから」
 金「何か上げなよ、失礼だが半纒《はんてん》を、誠に失礼で御立腹か知らんが襦袢《じゅばん》なども上げなよ」
 蓮「どうぞ不用なのですから、赤いのも今は土器色《かわらけいろ》に成ったんです」
 金「細帯も附けて上げなよ」
 清「是は何《ど》うも恐れ入ります、残らず拝借致しても他の物と違いまして、瀬戸物や塗物は瑾《きず》を付けた位で済みますが、着類《きるい》は着れば切れるもので」
 金「宜しい切れても、仕舞って置いたって折切《おりき》れます、誰《たれ》にも遣る者はなし詰らんわけだから着せて下さい、綺麗な身装《なり》をして出入《ではい》りをして下されば私も鼻が高い、今だって汚くも何《なん》と
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