、米搗《こめつき》は越後と信濃からと極って居ました、江戸ッ子の番太郎は無い中に、長谷川町《はせがわちょう》の木戸の側《わき》に居た番太郎は江戸ッ子でございます、名を喜助《きすけ》と云って誠に酒喰《さけくら》いですが、妙な男で夜番《よばん》をする時には堅い男だから鐘が鳴ると直《すぐ》に拍子木を持って出ます、向うの突当《つきあたり》までちゃんと行って帰って来ます。大概の横着者は、チョン/\チョン/\と四つ打って町内を八分程行くと、音さえ聞えれば宜《い》いんで帰って来ますが此の男は突当りまで見廻って来ないと気が済まないと云う堅い人で、ボンチョン番太と綽名《あだな》が有る位で何《ど》う云う訳かと聞いて見ると、ボーンと云う鐘とチョンと打出す拍子木と同じだからボンチョン番太と云う、余程堅い男だが酒が嗜《す》きで暇《ま》さえあれば酒を飲みます、女房をお梅と云って年齢《とし》は二十三で、亭主とは年齢が違って若うございますが、亭主思いで能く生酔《なまえい》の看護《もり》を致しますので、近所の評判にあの内儀《かみ》さんは好《い》い女だ喜助の女房には不釣合だと云われる位ですが、誠に貞節な者で一体情の深い女でございますから、本当に能く亭主の看護を致して、嗜《すき》な物を買って置き、
 梅「寒いから一杯お飲《た》べかえ、沢山飲むといけないよ、二合にしてお置よ、三合に成ると少し舌が廻らなくなる、身体に障《さわ》るだろうと思って案じられるから」
 喜「うむ寒いな、霜月に這入ってからグッと寒く成った何《ど》うしても寒くなると飲まずにゃ居られねえな」
 梅「寒いたって、寒い訳だよ、朝から飲んでるからもう酔い醒《ざめ》のする時分だからさ、町代《まちだい》の總助《そうすけ》さんが来て余り酒を飲ましちゃアいけない、あれでは身体が堪《たま》るまいと被仰《おっしゃ》って案じておいでだよ、皆様《みなさん》が御贔屓《ごひいき》だから然《そ》う云って下さるんだよ」
 喜「もう是れ限《ぎ》り飲まねえから、よう宜《い》いからもう一本|燗《つ》けなよ」
 梅「燗けなってお酒が無いんだよ」
 喜「無けりゃア買って来ねえな、おい」
 梅「もう今日はこれだけにしてお置きな」
 喜「熱い時分ならそれで宜いが、寒い時分には二合じゃア足りねえ、ようお前《めえ》能く己《おれ》の面倒を見て可愛がって呉んな、其の代り己がお前を可愛がって遣
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