》は誠に工合《ぐあひ》が宜《よろ》しいが、汁粉屋《しるこや》の店《みせ》からは何《なん》となく出にくいもの、汁粉屋《しるこや》では酔《よ》ふ気遣《きづかひ》はない、少し喰過《くひすぎ》て靠《もた》れて蒼《あを》い顔をしてヒヨロ/\横に出る抔《など》は、余《あま》り好《よ》い格好《かつこう》ではござりませぬ。さて此《この》世辞屋《せじや》は角店《かどみせ》にして横手《よこて》の方《はう》を板塀《いたべい》に致《いた》し、赤松《あかまつ》のヒヨロに紅葉《もみぢ》を植込《うゑこ》み、石燈籠《いしどうろう》の頭《あたま》が少し見えると云《い》ふ拵《こしらへ》にして、其此方《そのこなた》へ暖簾《のれん》を懸《か》け之《これ》を潜《くゞ》つて中《なか》へ這入《はい》ると、格子戸作《かうしどづくり》になつて居《ゐ》ましてズーツと洗出《あらひだし》の敲《たゝき》、山《やま》づらの一|間《けん》余《よ》もあらうといふ沓脱《くつぬぎ》が据《す》ゑてあり、正面《しやうめん》の処《ところ》は銀錆《ぎんさび》の襖《ふすま》にチヨイと永湖先生《えいこせんせい》と光峨先生《くわうがせんせい》の合作《がつさく》の薄墨附立書《うすずみつけたてがき》と云《い》ふので、何所迄《どこまで》も恰当《こうとう》な拵《こしらへ》、傍《かたはら》の戸棚《とだな》の戸《と》を開《あ》けると棚《たな》が吊《つ》つてあつて、ズーツと口分《くちわけ》を致《いた》して世辞《せじ》の機械が並んで居《ゐ》る。其此方《そのこなた》には檜《ひのき》の帳場格子《ちやうばがうし》がありまして、其裡《そのうち》に机を置き、頻《しきり》に帳合《ちやうあい》をして居《ゐ》るのが主人《あるじ》。表《おもて》の入口《いりくち》には焦茶地《こげちやぢ》へ白抜《しろぬき》で「せじや」と仮名《かな》で顕《あらは》し山形《やまがた》に口といふ字が標《しるし》に附《つい》て居《を》る処《ところ》は主人《あるじ》の働《はたらき》で、世辞《せじ》を商《あきな》ふのだから主人《あるじ》も莞爾《にこやか》な顔、番頭《ばんとう》も愛《あい》くるしく、若衆《わかいしゆ》から小僧《こぞう》に至《いた》るまで皆《みな》ニコ/\した愛嬌《あいけう》のある者《もの》ばかり。此家《こゝ》へ世辞《せじ》を買《かひ》に来《く》る者は何《いづ》れも無人相《ぶにんさう》なイヤアな顔の
前へ
次へ
全13ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング