って来るのは師匠に新吉。けれどもお久ばかりは相変らず稽古に来る、と云うものは家《うち》に居ると、継母に苛《いじ》められるからで、此のお久は愛嬌のある娘で、年は十八でございますが、一寸笑うと口の脇へ靨《えくぼ》と云って穴があきます。何もずぬけて美女《いゝおんな》ではないが、一寸|男惚《おとこぼれ》のする愛らしい娘。新吉の顔を見てはにこ/\笑うから、新吉も嬉しいからニヤリと笑う。其の互《たがい》に笑うのを師匠が見ると外面《うわべ》へは顕《あら》わさないが、何か訳が有るかと思って心では妬《や》きます。この心で妬くのは一番毒で、むや/\修羅《しゅら》を燃《もや》して胸に燃火《たくひ》の絶える間《ま》がございませんから、逆上《のぼ》せて頭痛がするとか、血の道が起《おこ》るとか云う事のみでございます。と云って外《ほか》に意趣返しの仕様がないから稽古の時にお久を苛めます。
豐「本当に此の娘《こ》は何てえ物覚《ものおぼえ》が悪い娘だろう、其処《そこ》がいけないよ、此様《こん》なじれったい娘はないよ」
と無暗《むやみ》に捻《つね》るけれども、お久は何も知らぬから、芸が上《あが》ると思いまして、幾ら捻
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