右衞門という老人《としより》が名主役を勤めており、多助は北阪《きたさか》の村はずれの堤下《どてした》に独身活計《ひとりぐらし》をしているというから遣って参り、
 宗「多助さん/\、多助|爺《じい》やア」
 多「あい、なんだ坊様か、今日は些《ち》とべえ志が有るから、銭い呉れるから此方《こっち》へ這入《へえ》んな」
 宗「修行に来たんじゃアない、お前は何時《いつ》も達者で誠に嬉しいね」
 多「誰だ/\」
 宗「はいお前忘れたかえ、私《わし》は惣吉だアね、お前の世話に成った惣右衞門の忰の惣吉だよ」

        九十五

 多「おい成程えかくなったねえ、まア、坊様に成ったアもんだから些《ちっ》とも知んねえだ、能くまア来たあねえ」
 と嬉し涙に泣き沈み漸々《よう/\》涙を拭いながら、
 多「あゝ三年前にお前さまが宅《うち》を出て往《い》く時はせつなかったが、敵討だというから仕方がねえと思って出して上げたが後《あと》で思え出しては泣いてばかりいたが、作右衞門様の世話でもって、何《ど》うやら斯《こ》うやら取附いて此処《こゝ》にいやすが、お前様を訪ねてえっても訪ねられねえだが、お母様《ふくろさん
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