るのでござりまする。丁度其の日の申刻《なゝつ》下《さが》り、日はもう西へ傾いた頃、此の茶見世へ来て休んでいる武士《さむらい》は、廻し合羽《がっぱ》を着て、柄袋の掛った大小を差し、半股引の少し破《や》れたのを穿いて、盲縞《めくらじま》の山なしの脚半《きゃはん》に丁寧に刺した紺足袋、切緒《きれお》の草鞋《わらじ》を穿き、傍《かたわら》に振り分け荷を置き、菅《すげ》の雪下《ゆきおろ》しの三度笠を深く冠《かぶ》り、煙草をパクリ/\呑んで居りますると、門口から這入って参りました馬方は馬を軒の傍へ繋《つな》いで這入って来ながら、
 馬「婆《ばア》さま、お茶ア一杯《いっぺえ》くんねえ、今の、お客を一人|新高野《しんこうや》まで乗《のっ》けて来た」
 婆「おめえさまは何時《いつ》もよい機嫌だのう」
 馬「いゝ機嫌だって、機嫌悪くしたって銭の儲かる訳でもねえから仕ようがねえのよ」
 といいながら彼《か》の縁台に腰を掛けていたる客人を見て、
 馬「お客さん御免なせえ、あんた何方《どちら》へおいでゝごぜえやすねえ、もうハア日イ暮れ掛って来やしたから、お泊《とまり》は流山か松戸|泊《どまり》が近くってようごぜ
前へ 次へ
全520ページ中447ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング