すぐ》に硯箱《すゞりばこ》を取出し、事細かに二通の書置を認《したゝ》めて、一通は花車へ、一通は羽生村の惣吉親子の者へ、実は旦那の仇《あだ》を討ち度《た》い許《ばか》りで、心にもない愛想尽しを申して家《うち》を出て、麹屋へ参って恥かしい身の上になりましたが、幸いに富五郎が来て、これ/\の訳と残らず自分の口から申して、一角の隠家《かくれが》もこれ/\と知れましたから、女ながらも富五郎は首尾能く打留《うちと》めたから、今夜直ぐに一角の隠家へ踏込んで恨みを晴し、本望《ほんもう》を遂《と》げる積り、なれども女の細腕、若《も》し返り討になる様な事があったならば、惣吉が成人の上、関取に助太刀を頼んで旦那と私の恨《うらみ》を晴らして下さい、敵《かたき》は一角に相違ない事は富五郎の白状で定《きま》りましたという、関取と母親の方へ二通の書置を残して傍《そば》に掛っている湯沸しの湯を呑み、懐へ匕首を隠して庭の方の雨戸を明けると、雪は小降になった様でもふッ/\と吹っかける中を跣足《はだし》で駈出して、交遊庵という一角の隠家へ踏込みまするというお隅|仇打《あだうち》のお話を次回に。
七十四
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