ますけれども致方《いたしかた》がない。翌月《よくげつ》の十月の声を聞くと、花車は江戸へ参らなければならぬから、花車重吉が暇乞《いとまごい》に来て、
 花「私《わし》はこれ/\で江戸へ参りますが、何事があっても手紙さえ下されば直に出て来て力に成って上げますから、心丈夫に思ってお出でなさい」
 と二人にいい聞かして、花車重吉は江戸へ帰りました。跡方は惣吉という取って十歳の子供とお隅に母親と、多助という旧来此の家にいる番頭|様《よう》の者ばかりで、何《なん》と無く心細い。十一月の三日の事で、空は雪催しで、曇りまして、筑波|下《おろ》しの大風が吹き立てゝ、身を裂《さか》れるほど寒うございます。
 母「あゝ寒いてえ、年イ取ると風が身に泌《し》みるだ、そこを閉《た》ってくんろよ、何《な》んだか今年に成って一時《いちじ》に年イ取った様な心持がするだ、酷《ひど》く寒いのう、多助やぴったり其処《そこ》を閉ってくんろよ」
 多「なにあんた、そんなに年イ取った/\といわなえがいゝ、若《わけ》え者《もん》でも寒いだ、何《なん》だかハア雪イ降るばいと思う様に空ア雲って参《めえ》りました」
 母「其処《そこ》を閉
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