もおられぬので、直に私は逃げますから、路銀を二三十金拝借致し度《た》い」
 安「どうしたか、そう騒いではいかない」
 富「どうも先生、これ/\でげす」
 と一部始終の話をしますると、相手は角力取ですから一角も不気味《ぶきび》でございますが、
 安「然《そ》うか、驚くことはない、私《わし》が殺したという事を云いはしまい」
 富「何《なん》で…それはいいませぬ、足下《そっか》とちゃんとお約束を致した廉《かど》がありますから、仮令《たとえ》脊骨をどやされて骨が折れてもそれは云わん、云わぬに依《よ》ってこんな苦しい目を致したから、可哀そうと思って二三十金ください、直に私《わし》は逃げますから」
 安「何《な》んだ、何んにも怖いことはない」
 富「怖いことはないと仰しゃるが、足下知らないからだ、何《ど》うも彼奴《あいつ》の力は無法な力で、只握られたばかりでもこんなに痣《あざ》になるのだもの」
 安「じゃア貴公に路銀を遣るから逃げるがよい」
 富「足下も早く、直に跡から遣って来ますよ」
 安「遣って来ても云いさえせんければ宜しい」
 富「理不尽に…」
 安「幾ら理不尽でも白状せぬのに踏込《ふんご》
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