様が通り掛って助けて家《うち》に置いて下さるお蔭で以《もっ》て、黒い羽織を着て、村でも富さん/\といわれるのは全く旦那の御恩でげす、其の御恩のある旦那を、悪心ある者の為に手引をして殺させるという様な事は、どの様なことがあっても覚えはござりませぬが、アヽ痛《いた》たゝゝアヽ痛うござります、腕が折れてしまいます」
花「なに痛いと、腕を折ろうと脊骨を折ろうと己の了簡だ、己が兄弟分になった旦那を、殺した奴を捜して敵《かたき》を討たにゃならぬ、手前《てまえ》一人に換えられないから云わなけれア殺してしまう、それとも殺させたといえば助けて遣るが、云わないか此の野郎」
と松の木の様な拳《こぶし》を振上げて打とうと致しました時には、実に鷲《わし》に捕《つか》まった小鳥の様なもので、逃げるも退《ひ》くも出来ません、此の時に富五郎がどう言訳を致しますか、一寸一息つきまして。
六十八
富五郎が花車に取って押えられましたは天命で、己《おのれ》が企《たく》みで、惣次郎の差料《さしりょう》の脇差へ松脂を注《つ》ぎ込んで置きながら、其の脇差を抜いて惣次郎がちょん/\切合ったという処から事が顕
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