按摩「アッ」
と云うその声に驚きまして、門番の勘藏が駈出して来て見ると、宗悦と思いの外《ほか》奥方の肩先深く斬りつけましたから、奥方は七転八倒の苦しみ、
新「ア、彼《あ》の按摩は」
と見るともう按摩の影はありません。
新「宗悦め執《しゅう》ねくもこれへ化けて参ったなと思って、思わず知らず斬りましたが、奥方だったか」
奥「あゝ誰《たれ》を怨《うら》みましょう、私《わたくし》は宗悦に殺されるだろうと思って居りましたが、貴方御酒をお廃《や》めなさいませんと遂には家が潰れます」
と一二度虚空をつかんで苦しみましたが、奥方はそのまゝ息は絶えましたから如何《いかん》とも致し方がございませんが、この事は表向にも出来ません。殊《こと》には年末《くれ》の事でございますから、これから頭《かしら》の宅へ内々参ってだん/″\歎願をいたしまして、極《ごく》内分《ないぶん》の沙汰にして病死のつもりにいたしました。昔は能《よ》く変死が有っても屏風《びょうぶ》を立てゝ置いて、お頭が来て屏風の外《そと》で「遺言を」なんどゝ申しますが、もう当人は夙《とっく》に死んでいるから遺言も何も有りようはずはございませ
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