抜けないから脇差を投《ほう》り付けたのを盗賊《どろぼう》が置いて行ったか、其処《そこ》は分らんが、今富五郎が私《わし》も切り合い旦那も切合ったが、相手が大勢で敵《かな》わんというので駈付けて来て知らしたというのは、それはどうも私は胡散なことと思う、仮令《たとえ》相手が多かろうが少なかろうが、旦那|様《さん》が危《あぶな》いのを一人|措《お》いて逃げて来るという訳はないねえ、然《そ》うじゃないか、大切な主人と思えばどこ迄も助けるには側にいなければならぬ、それを措いて来るとは、怖いから逃げたとしか思えない、旦那が脇差を抜いて切合ったというが抜けやしない、ねえ、どうしても抜けない刀を抜いて切合ったという道理がないから、どうも富五郎という奴が怪しい、という訳は、お隅さん、去年の秋大生郷の天神前で喧嘩を仕掛けた奴がお隅さんが麹屋に居た時分お前さんに惚れて居て冗談をいった奴がある、処がお隅さんは堅いから、いう事を聞かんで撥付《はねつ》けたのを遺恨に思うているということを知っている、事に依《よ》ったら安田一角が旦那を切って逃げやアしないかと考えた、就《つい》ては山倉富五郎という野郎は、口前は好《い》
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