がら少し訳があって遅く参りました、まア御免なせえ」
多「さア此方《こっち》へお這入り」
というので風呂敷包を提げたなり奥へ参ります。来てみると香花《こうはな》は始終絶えませぬから其処《そこ》らが線香|臭《くそ》うございます。
多「お内儀さん法恩寺の関取が参りましたよ」
母「やア花車が来たかい、さア此方《こっち》へ這入っておくんなせえ」
花「はい、お内儀さん何《なん》とも此の度《たび》は申そう様もございません、さぞ御愁傷様でございましょう」
六十五
母「はい只どうもね魂消《たまげ》てばいいます、お前も知っている通り小《ちい》せえ時分から親孝行で父様《とっさま》アとは違って道楽もぶたなえ、こんな堅い人はなえ、小前《こまえ》の者にも情《なさけ》を掛けて親切にする、あゝいう人がこんなハア殺され様をするというは神も仏もないかと村の者が泣いて騒ぐ、私《わし》もハア此の年になって跡目相続をする大事な忰にはア死別《しにわか》れ、それも畳の上で長煩《ながわずら》いして看病をした上の臨終でないだから、何《なん》たる因果かと思えましてね、愚痴い出て泣いてばいいます、それにお隅
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