「いゝじゃアありませんか二人でズーッと」
 隅「いけないよ、其様《そん》な事をして」
 富「それ、然《そ》ういうお堅いから二人で夫婦養子にどんな処へでも可《か》なり高《たか》のある処へ行けます、お隅さん」
 と何《なん》と心得違いしたか富五郎、無闇にお隅の手を取って髯《ひげ》だらけの顔を押付ける処へ、母が帰って来て、此の体《てい》を見て驚きましたから、傍《そば》にある麁朶《そだ》を取って突然《いきなり》ポンと撲《ぶ》った。
 富「これは痛い」
 母「呆れかえった奴だ」
 隅「よくお帰りでございまして」
 母「今|帰《けえ》って来たゞが、彼《あ》の野郎ふざけ廻りやアがって、富五郎|茲《こゝ》へ出ろ」
 富「ヘエ、これは恐入りました、どうも些《ちっ》ともお帰りを知らんで、前後忘却致し、どうも何《なん》とも誠にどうも、何《なん》で御打擲《ごちょうちゃく》ですか薩張《さっぱり》分りません」
 母「今見ていれば何《なん》だお隅にあの挙動《まね》は何だ、えゝ、厭がる者を無理にかじり付いて、髯だらけの面《つら》を擦《こす》り付けて、お隅をどうしようというだ、お隅は何《なん》だえ、惣次郎の女房という事
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