《あんべえ》の悪《わり》いのに憫然ぐれえ知って居らア、止せよ」
新「憫然も何も有るもんか、何を云やアがるのだ此ン畜生《ちきしょう》、蚊帳を放さねえか」
累「それは旦那様お情のうございます、金をお持ち遊ばして其の上蚊帳までも持って行っては私《わたくし》は構いませんが坊が憫然で」
新「何《なん》だ坊は己の餓鬼だ、何だ放さねえかよう、此畜生《こんちきしょう》め」
と拳《こぶし》を固めて病人の頬をポカリ/\撲《ぶ》つから、是を見て居る作藏も身の毛|立《だ》つようで、
作「止せよ兄貴、己酒の酔《えい》も何も醒《さ》めて仕舞った、兄貴止せよ、姉御、見込んだら放さねえ男だから、なア、仕方がねえから放しなさえ、だが、敲くのは止せよ」
新「なに、此畜生め、オイ頭の兀《はげ》てる所《とこ》を打《ぶ》つと、手が粘って変な心持がするから、棒か何か無《ね》えか、其処《そこ》に麁朶《そだ》があらア、其の麁朶を取ってくんな」
作「止せよ/\、麁朶はお願いだから止せよ」
新「なに此畜生|撲《なぐ》るぞ」
作「姉御麁朶を取って出さねえと己《おら》を撲るから、放すが宜《え》え、見込まれたら蚊帳は助からね
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