藏の脇腹をこじりましたから、三藏も遂《つい》に其の儘息が絶えました。すると手早く三藏の懐へ手を入れ、胴巻の金を抜き取って死骸を川の中へ投げ込んで仕舞い、
新「お賤/\」
賤「アイ、アヽ痛い、どうも酷《ひど》い事をしやアがった、石か何か取って、いやという程私の顔を打《ぶ》ちやアがった」
新「手出しをするからだ、黙って見ていればいゝに」
賤「見て居《い》ればお前が殺されて仕舞ったのだよ、與助の野郎がお前の後《うしろ》から斬りに掛ったから、私が一生懸命に手伝ったのだが、もう少しでお前斬られる処だったよ」
新「そうか、夢中でいたから、ちっとも知らなかった」
賤「與助をよく蹴倒したのう」
作「え、なに己だ、林の蔭に隠れていたが、危ねえ様子だから飛び出して来て、與助野郎の肋骨《あばら》を蹴折って仕舞った、兄い無心|処《どころ》じゃねえ突然《いきなり》に行《や》ったんだな」
新「汝《てめえ》はもう帰《けえ》ったのかと思った」
作「林の蔭に隠れていて、何《ど》うだかと様子を見ていたのよ」
新「誰か人は来やアしねえか、汝《てめえ》気を附けて呉れ」
作「大丈夫《でえじょうぶ》だ、誰も来る気遣《きづけえ》はねえが、割合《わりえゝ》を貰《もれ》え度《て》えなア」
新「汝《てめえ》はよく嘘を吐《つ》く奴だな、三藏が高野へ納める祠堂金を持ってるというから、懐を探して見たが、金なんぞ持っていやアしねえ、漸《ようや》く紙入の中に二両か三両しかありゃアしねえ」
作「冗談じゃアねえぜ、そんな事があるもんか」
新「だって汝《てめえ》嘘を吐いたんだ」
作「なに己が嘘なんぞ吐くものか、此の野郎殺して置いて其の金を取って仕舞ったに違《ちげ》えねえ、そんな事をいっても駄目だ」
新「なに本当だよ」
作「死骸《しげえ》はどうした」
新「川の中へ投《ほう》り込んでしまった」
作「嘘をいえ、戯《ふざ》けずに早くよこせよ、戯けるなよ」
新「なに戯けやアしねえ」
といわれ、作藏は少し怒気《どき》を含み、訛声《だみごえ》を張上げ、
作「手前《てめえ》の懐を改めて見よう、己だって手伝って、姐《あね》さんを斬ろうとする與助を己が蹴殺して、罪を造っているんだ、裸体《はだか》になって見せろやい、出せってばやい」
といいながら新吉に取縋《とりすが》る。
新「遣るよ、遣るから待てというに、戯けるな、放せ」
作「なんだ、人を欺《だま》して、金え出せよう」
新「遣るから待てよ、遣るというに、お賤、その柳行李《やなぎごり》の中に少し許《ばか》り金が這入《へえ》ってるから出して作藏に遣んな、三藏の懐には無《ね》えんだから沢山《たんと》は遣れねえ、十両ばかり遣ろう」
と気休めをいいながら隙《すき》を覘《ねら》ってどんと作藏の腰を突くと、どぶりと用水へ落ちましたが、がば/″\と直《すぐ》に上《あが》って参りまする処を見て、ずーんと脳を割附《わりつ》けると、アッ、といってがば/″\と沈みましたが、又這上りながら、
作「斬りやアがったなア此の野郎」
と云う声がりーんと谺《こだま》がして川に響きました。尚《なお》も這上ろうとする処を、また一つ突きましたから、仰むけにひっくりかえりましたが、又這上って来るのを無暗《むやみ》に斬り附けましたから、馬方の作藏は是迄の悪事の報いにや遂《つい》に息が止ったと見え、其の儘土手の草を攫《つか》んだなり川の中へのめり込んで仕舞いました。
賤「お前まア恐ろしい酷《ひど》い事をするねえ」
新「此の野郎はお饒舌《しゃべり》をする奴だから、罪な様だが五両でも八両でも金を遣るのは費《ついえ》だから切殺して仕舞ったが、もう此処《こゝ》にぐず/\してはいられねえ」
賤「私はどうも殴《ぶた》れた処《とこ》が痛くって堪《たま》らないよ」
新「何《な》んだか暗くって判然《はっきり》分らねえ」
といいながら透《すか》して見ると、石だか土塊《どろ》だか分りませんが、機《はず》みとはいいながら打《ぶ》たれた痣《あざ》は半面紫色に黒み掛り、腫《は》れ上っていましたから、新吉がぞっとしたと申すは、丁度七年|後《あと》の七月廿一日の夜《よ》、お累が己を怨《うら》み、鎌で自殺をした彼《あ》の時に、蚊帳の傍《そば》へ坐って己の顔を怨めしそうに睨《にら》めた貌《かお》が、実に此の通りの貌だが、今お賤が思い掛ない怪我をして、半面|変相《へんそう》になるというのも、飽《あく》までお累が己の身体に附纒《つきまつわ》って祟《たゝり》をなす事ではないかと、流石《さすが》の悪党も怖気立《こわげた》ち、ものをも言わず暫くは茫然《ぼんやり》と立って居りましたが、お賤は気が附きませんから、
賤「お前早く人の来ない中《うち》に何処《どこ》かへ往って泊らなくっちゃアいけな
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