かりして居てね、身体が悪《わり》いから墓参りして、何《なん》でも無縁様の墓ア磨けば幻術が使えるとか何とか云ってね、願掛《がんがけ》えして」
賤「おや気味の悪い、幻術使いかえ」
作「今是から幻術使いになるべえと云うのだろう」
賤「然うかえ妙な事が田舎には有るものだねえ、何かえ江戸の者で此方《こっち》へ来たのかえ」
作「ヘエ上《かみ》の三藏さんてえ人の妹娘《いもとむすめ》お累てえが、お前《めえ》さん、新吉が此方へ来たので娘心に惚れたゞ、何《ど》うか聟に貰えてえって恋煩いして塩梅が悪くなって、兄様も母親様《おっかさま》も見兼ねて金出した恋聟よ」
賤「然うかえ、新吉|様《さん》と、おや新吉さんというので思い出したが、見た訳だよ私がね櫓下に下地子《したじっこ》に成って紅葉屋《もみじや》に居る時分、彼《あ》の人は本石町の松田とか桝田とか云う貸本屋の家《うち》に奉公して居て、貸本を脊負《しょ》って来たから、私は年のいかない頃だけども、度々《たび/″\》見て知って居るよ、大層芸者|衆《しゅ》もヤレコレ云って可愛がって、そう/\中々愛敬者で、知って居るよ」
作「アヽマア新吉さん/\、おい此方《こっち》へ来なせえ、アノ御新造様がお前《めえ》を知って居るてねえ」
新「何方様《どなたさま》でげすえ」
賤「ちょいと新吉さんですか、私は誠にお見違《みそ》れ申しましたよ、慥《たし》か深川櫓下の紅葉屋へ貸本を脊負ってお出でなすった新吉さんでは有りませんか」
新「ヘエ、私もねえ先刻《さっき》からお見掛け申したような方と思ったが、若《もし》も間違ってはいけねえと思って言葉を掛けませんでしたが、慥かお賤さんで」
作「それだから知って居るだ何処《どこ》で何様《どん》な人に逢うか知んねえ、嘘は吐《つ》けねえもんだ」
賤「私は此の頃|此方《こっち》へ来て、斯《こ》ういう処にいるけれども、馴染はなし、洒落を云ったって向《むこう》に通じもしないし、些《ちっ》とも面白くないから、作藏さんが毎晩来て遊んでくれるので、些とは気晴しになるんだが、新吉さん本当に好《い》い処で、些とお出でなさいな、ちょうど旦那が遊びに来て居るから、変な淋しい処だけれども、閑静《しずか》で好いから一寸《ちょいと》お寄りな」
新「ヘエ有難うございます、私はね此方《こっち》へ参りまして未《ま》だ名主様へ染々《しみ/″\》お近付にもなりませんで、兄貴が連れてお近付に参ると云って居りますが、何《なん》だか気が詰ると思ってツイ御無沙汰をして参りませんので」
賤「なに気が詰る所《どころ》じゃア無い、さっくり能《よ》く解《わか》った人だよ、私を娘の様に可愛がって呉れるから一寸《ちょいと》お寄りな、ねえ作さん」
作「それが好《い》い、新吉さんお出でよ、何《なん》でもお出で」
と勧められるから新吉は、幸い名主に逢おうと行《ゆ》きましたが、少し田甫《たんぼ》を離れて庭があって、囲《かこい》は生垣になって、一寸《ちょいと》した門の形が有る中に花壇などがある。
賤「さア新吉さん此方《こっち》へ」
惣「大層遅かったな」
賤「遅いったって見る処がないから累《かさね》の墓を見て来ましたが、気味が悪くて面白くないから帰って来たの」
作「只今」
惣「大きに作藏御苦労、誰か一緒か」
賤「彼《あ》の人は新吉さんと云って私が櫓下に居る時分、貸本屋の小僧さんで居て、その時分に本を脊負って来て馴染なので、思い掛けなく逢いましたら、まだ旦那様にお目に掛らないから、何卒《どうか》お目通りがしたいと云うから、それは丁度|好《よ》い、旦那様は家《うち》に来て居らっしゃるからと云って、無理に連れて来たので」
惣「おや/\そうか、さア此方《こちら》へ」
新「ヘエ初めまして、私《わたくし》はえゝ三藏の家《うち》へ養子に参りました新吉と申す不調法者で、何卒《どうぞ》一遍は旦那様にお目通りしたいと思いましたが、掛違いましてお目通りを致しません、今日《こんにち》は好《よ》い折柄《おりがら》お賤さんにお目に掛って出ましたが、ついお土産も持参致しませんで」
惣「いゝえ、話には聞いたが、大層心掛の善い人だって、お前さん墓参りに能《よ》く行くってね」
新「ヘエ身体が悪いので法蔵寺の和尚様が、無縁の墓へ香花を上げると、身体が丈夫になると云うから、初めは貶《けな》しましたが、それでも親切な勧めだと思って参りますが、妙なもので此の頃は其の功徳かして大きに丈夫に成りました」
惣「うん成程|然《そ》うかえ、能く墓参《はかめえ》りをする、中々|温順《おとなし》やかな実銘《じつめい》な男だと云って、村でも評判が好《い》い」
賤「本当に極くおとなしい人で、貸本屋に居て本を脊負ってくる時分にも、一寸《ちょっと》来ても、新吉さん手伝っておく
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