アさんが二人来て麦搗唄《むぎつきうた》を唄います。「目出度《めでた》いものは芋《いも》の種」と申す文句でございます。「目出度いものは芋の種葉広く茎長く子供|夥多《あまた》にエヽ」と詰らん唄で、それを婆アさんが二人並んで大きな声で唄い、目出度《めでたく》祝《しゅく》して帰る。これから新吉が花婿の床入《とこいり》になる。ところが何時《いつ》までたっても嫁お累が出て来ませんので、極りが悪いから嫌われたかと思いまして、
新「もう来そうなもの」
と見ると屏風《びょうぶ》の外に行燈《あんどう》が有ります。その行燈の側に、欝《ふさ》いで向《むこう》を向いて居るから、
新「何《なん》だね、其処《そこ》に居るのかえ、冗談じゃアない、極りが悪いねえ、何《ど》うしたのだえ、間が悪いね、其処に引込《ひっこ》んで居ては極りが悪い、此方《こっち》へ来て、よう、私は来たばかりで極りが悪い、お前ばかり便《たよ》りに思うのに、初めてじゃアなし、法蔵寺で逢って知って居るから、先刻《さっき》お前さんが白い綿帽子を冠《かぶ》って居たが、田舎は堅いと思って、顔を見度《みた》いと思っても、綿を冠って居るから顔も見られず、間違じゃアねえかと思い、心配して居た、早く来て顔を見せて、よう、此方へ来ておくれな」
累「こんな処《とこ》へ来て下すって、誠に私はお気の毒様で先刻《さっき》から種々《いろ/\》考えて居りました」
新「気の毒も何もない、土手の甚藏の云うのだから、訳も分らねえ借金まで払って、お兄《あに》いさんが私の様な者を貰って下すって有難いと思って、私はこれから辛抱して身を堅める了簡で居るからね、よう、傍《そば》へ来てお寝な」
累「作右衞門さんを頼んで、お嫌《いや》ながらいらしって下すっても、私の様な者だから、もう三日もいらっしゃると、愛想《あいそ》が尽きて直《じ》きお見捨なさろうと思って、そればっかり私は心に掛って、悲しくって先刻《さっき》から泣いてばかり居りました」
新「見捨てるにも見捨てないにも、今来たばかりで、其様《そん》な詰らんことを云って、私は身寄|便《たより》もないから、お前の方で可愛がってくれゝば何処《どこ》へも行《ゆ》きません、見捨てるなどと此方《こっち》が云う事で」
累「だって私はね、貴方、斯《こ》んな顔になりましたもの」
新「エ、あの私はね、此様《こん》な顔と云う口上は大嫌いなので、ド、何《ど》んな顔に」
累「はい此の間火傷を致しましてね」
と恥かしそうに行燈《あんどう》の処へ顔を出すのを、新吉が熟々《つく/″\》見ると、此の間法蔵寺で見たとは大違い、半面火傷の傷、額《ひたえ》から頬へ片鬢《かたびん》抜上《ぬけあが》りまして相が変ったのだから、あっと新吉は身の毛立ちました。
新「何《ど》うして、お前まア恐ろしい怪我をして、エヽ、なに何《なん》だか判然《はっきり》と云わなければ、もっと傍へ来て、え、囲炉裡《いろり》へ落ちて、何うも火傷するたって、何うも恐ろしい怪我じゃアないか、まアえゝ」
と云いながら新吉は熟々と考えて見れば、累が淵で殺したお久の為には、伯母に当るお累の処へ私が、養子に来る事になり、此の間まで美くしい娘が、急に私と縁組をする時になり、此様《こん》な顔形《かおかたち》になると云うのも、やっぱり豐志賀が祟《たゝ》り性《しょう》を引いて、飽くまでも己《おれ》を怨《うら》む事か、アヽ飛んだ処へ縁付いて来た、と新吉が思いますると、途端に、ざら/\と云う、屋根裏で厭《いや》な音が致しますから、ヒョイと見ると、縁側の障子が明いて居ります、と其の外は縁側で、茅葺《かやぶき》屋根の裏に弁慶と云うものが釣ってある。それへずぶりと斜《はす》に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]《さ》して有るは草苅鎌、甚藏が二十両に売付けた鎌を與助と云う下男が磨澄《とぎすま》して、弁慶へ※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]して置いたので、其の鎌の処へ、屋根裏を伝わって来た蛇が纏《まと》い付き、二三度|搦《から》まりました、すると不思議なのは蛇がポツリと二つに切れて、縁側へ落ると、蛇の頭は胴から切れたなりに、床《とこ》の処へ這入って来た時は、お累は驚きまして、
累「アレ蛇が」
と云う。新吉もぞっとする程身の毛立ったから、煙管《きせる》を持って蛇の頭《かしら》を無暗《むやみ》に撲《う》つと、蛇の形は見えずなりました。怖い紛《まぎ》れにお累は新吉に縋《すが》り付く、その手を取って新枕《にいまくら》、悪縁とは云いながら、たった一晩でお累が身重になります。これが怪談の始《はじめ》でございます。
三十三
新吉とお累は悪縁でございますが、夫婦になりましてからは、新吉が
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