エ初めまして、私《わたくし》は新吉と申す不調法者で、お見知り置かれまして御贔屓《ごひいき》に願います」
作「是はまず/\お手をお上げなすって、まず/\、それでは何《ど》うも、エヽ石田作右衞門と申して至って不調法者で、お見知り置かれやして、此の後《のち》も御別懇《ごべっこん》に願《ねげ》えます」
甚「旦那、其様《そん》な叮嚀《ていねい》な事を云っちゃアいけねえ、マア早い話が宜《い》い、新吉、三藏さんと云ってな、小質《こしち》を取って居る家《うち》の一人娘、江戸で屋敷奉公して十一二年も勤めたから、江戸子《えどっこ》も同《おんな》し事で、器量は滅法|好《い》い娘だ、宜《い》いか、其のお嬢さんが手前《てめえ》を見てからくよ/\と恋煩いだ、冗談じゃアねえ、此畜生《こんちきしょう》め、えゝ、こう、其の娘が塩梅が悪《わり》いんで、手前に逢わねえじゃア病に障るから貰《もれ》えてえと云う訳だ、有難《ありがて》え、好い女房《かゝあ》を持つのだ、手前運が向いて来たのだ」
新「成程、三藏さんの妹娘で、成程、存じて居ります、一度お目に掛りました、然《そ》う云って来るだろうと思って居た」
甚「此畜生、生意気な事を云やアがる、増長して居やアがる、旦那腹ア立っちゃアいけねえ、若《わけ》えからうっかり云うので、大層を云って居やアがらア、手前《てめえ》己惚《うぬぼれ》るな、男が好《い》いたって田舎だから目に立つのだ、江戸へ行けば手前の様な面はいけえ事有らア、此様《こん》な田舎だから少し色が白いと目に立つのだ、田舎には此様な色の黒い人ばかりだから、イヤサお前《めえ》さんは年をとって居るから色は黒いがね、此様な有難《ありがて》え事はねえ、冗談じゃアねえ」
新「誠に有難い事でございます」
作「私《わし》もヤアぶち出し悪《にく》かったが、お前様《めえさま》が承知なら頼まれげえが有って有難《ありがて》えだ、然《そ》うなれば私《わし》イ及ばずながら媒妁《なこうど》する了簡だ、それじゃア大丈夫だろうネ、仔細《しせえ》無《ね》えね」
甚「ヘエ仔細《しせえ》有りません、有りませんが困る事には此の野郎の身体に少し借金が有るね」
作「なに借財が」
甚「ヘエ誠に何《ど》うもね、これが向《むこう》が堅気《かたぎ》でなければ宜《い》いが、彼《あ》ア云う三藏さん、此の野郎が行《ゆ》きそう/\方々から借金取が来て、新吉に/\と居催促《いざいそく》でもされちゃア、此の野郎も行った当坐《とうざ》極りが悪く、居たたまらねえで駈出す風な奴だから、行かねえ前に綺麗|薩張《さっぱり》借金を片付ければ私《わっち》も宜《よ》し、宜うがすか、私が請人《うけにん》になって居るからね、其の借金だけは向《むこう》で払ってくれましょうか」
作「でかく有れば困るが何《ど》のくれえ」
甚「何《ど》のくれえたって、なア新吉、彼方《あっち》へ縁付《かたづ》いてから借金取が方々から来られちゃア極りが悪《わり》いやア、其の極りを付けて貰うのだから借金の高を云いねえよ、さ、借金をよう」
新「ヘエ借金は有りません」
甚「何を云うのだ」
新「ヘエ」
甚「隠すな、え借金をよう」
新「借金はありません」
甚「分らねえ事を云うな、此の間もゴタ/\来るじゃアねえか」
三十二
甚「手前《てめえ》此処《こゝ》に居るのたア違わア、三藏さんの親類になるのだ、それに可愛いお嬢さんが塩梅が悪くって可哀想だから貰うと云うのだ、手前を貰わなければ命に障る大事《でえじ》な娘の貰うのだから、借金が有るなれば有ると云って、借金を片付けて貰えるからよ、然《そ》うして仕度《したく》して行かなければならねえ、借金が有ると云え、エヽおい」
新「ヘエ、成程、ヘエ/\成程、それは気が付きませんでした、成程是は、随分借金は有るので、是で中々有るので」
甚「有るなれば有ると云え、よう幾らある」
新「左様五両ばかり」
甚「カラ何《ど》うも云う事は子供でげすねえ、幾らア五拾両、けれども、エヽと、二拾両ばかり私《わっち》が目の出た時|返《けえ》して、三拾両あります」
作「ほう、三拾両、巨《でけ》えなア、まア相談ぶって見ましょう」
とこれから帰って話をすると、
三「相手が甚藏だから其の位の事は云うに違いない、宜《よろ》しい、其の代り、土手の甚藏が親類のような気になって出這入《ではいり》されては困るから、甚藏とは縁切《えんきり》で貰おう」
と云い、甚藏は縁切でも何《なん》でも金さえ取ればいゝ、と話が付き、先《ま》ず作右衞門が媒妁人《なこうど》で、十一月三日に婚礼致しました。田舎では妙なもので、婚礼の時は餅を搗《つ》く、村方の者は皆来て手伝をいたします。媒妁人が三々九度の盃をさして、それから、村で年重《としかさ》な婆《ば》
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