す」
 と、是から段々尋ねて、花と線香を持って墓場へ参りました。寺で聞けば宜しいに、己《おのれ》が殺した女の墓所《はかしょ》、事によったら、咎《とが》められはしないか、と脚疵《すねきず》で、手桶を提《さ》げて墓場でまご/\して居る。
 新「これだろう、これに違いない、是だ/\、花を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]《さ》して置きさえすれば宜しい、何処《どこ》へ葬っても同《おんな》じだが、因縁とか何《なん》とか云うので、お久の伯父さんを便《たよ》って二人で逃げて来て、師匠の祟りで殺したくもねえ可愛い女房を殺したのだが、お久は此処《こゝ》へ葬りになり、己《おれ》は、逃げれば甚藏が訴人するから、やっぱり羽生村に足を止めて墓詣《はかまいり》に来られる。是もやっぱり因縁の深いのだ。南無阿弥陀仏/\、エヽと法月童女《ほうげつどうにょ》と、何《なん》だ是は子供の戒名だ」
 と、頻《しき》りにまご/\して居る処へ、這入って来ました娘は、二十才《はたち》を一つも越したかと云う年頃、まだ元服前の大島田、色の白い鼻筋の通った二重瞼《ふたえまぶち》の、大柄ではございますが人柄の好《い》い、衣装《なり》は常着《ふだんぎ》だから好《よ》くはございませんが、なれども村方でも大尽《だいじん》の娘と思う拵《こしら》え、一人付添って来たのは肩の張ったお臀《しり》の大きな下婢《おんな》、肥《ふと》っちょうで赤ら顔、手織《ており》の単衣《ひとえ》に紫中形《むらさきちゅうがた》の腹合《はらあわせ》の帯、手桶を提げてヒョコ/\遣《や》って来て、
 下女「お嬢様|此方《こちら》へお出でなさえまし、此処《こゝ》だよ、貴方《あんた》ヨ待ちなさえヨ、私《わし》能《よ》く洗うだからねえ、本当に可哀想だって、己《おら》ア旦那様泣いた事はないけれども、お久様が尋ねて来て、顔も見ねえでおッ死《ち》んでしまって憫然《ふびん》だって泣いただ、本当に可哀想に、南無阿弥陀仏/\/\」
 新「これだ、えゝ少々物が承りとうございます」
 下女「何《なん》だかい」
 新「ヘエ」
 下女「何だかい」
 新「真中《まんなか》ですとえ」
 下女「イヽヤ何《なん》だか聞くのは何だかというのよ」
 新「ヘエと成程、この何《なん》ですかお墓は慥《たし》か川端で殺されて此の間お検死が済んで葬りになりました娘子様《むすめごさん》の御墓所《ごぼしょ》でございますか」
 下女「御墓所てえ何《なん》だか」
 新「このお墓は」
 下女「ヘエ此の間川端で殺されたお久さんと云うのを葬った墓場で」
 新「ヘエ左様で、私にお花を上げさして拝まして下さいませんか」
 下女「お前様《まえさま》知って居る人か」
 新「イヽエ無尽の呪咀《まじない》に樒《しきみ》の葉を三枚盗むと当るので」
 下女「そう云う鬮引《くじびき》が当るのか、沢山花ア上げて下さえ」
 新「ヘエ/\有難う、戒名は分りませんが、あとでお寺様で承りましょう、大きに有難う」
 と、ヒョイと後《あと》へ下《さが》りそうにすると、娘が側に立って居りまして、ジロリと横目で見ると、新吉は二十二でも小造《こづく》りの性《たち》で、色白の可愛気のある何処《どこ》となく好《い》い男、悪縁とは云いながら、此の娘も、何《ど》うしてこんな片田舎にこんな好い男が来たろうと思うと、恥かしくなりましたから、顔を横にしながら横眼で見る。新吉も美《い》い女だと思って立止って見て居りました。

        二十八

 新「もしお嬢さん、このお墓へお葬りになりました仏様の貴方はお身内でございますかえ」
 娘「はい私《わたくし》の身寄でございます」
 新「ヘエ道理でよく似ていらっしゃると思いました、イエ何、あのよく似たこともあるもので、江戸にも此様《こんな》事が有りましたから」
 下女「あんた、何処《どこ》に居るお方だい」
 新「私はあの直《じ》き近処《きんじょ》の者でげす、ヘエ土手の少し変な処《とこ》に一寸《ちょっと》這入って居ります」
 下女「土手の変な処《とこ》てえ蒲鉾小屋《かまぼこごや》かえ」
 新「乞食ではございません、其処《そこ》に懇意な者が有って厄介になって居るので」
 下女「そうかネ、それだら些《ちっ》と遊びにお出でなさえ、直《じ》き此の先の三藏と云うと知れますよ、質屋の三藏てえば直き知れやす」
 娘は頻《しき》りに新吉の顔を横眼で見惚《みと》れて居ると、何《ど》う云う事でございますか、お久の墓場の樒の※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]して有る間から一匹出ました蛇の、長さ彼《か》れ是《こ》れ三尺《さんじゃく》ばかりもあるくちなわ[#「くちなわ」に傍点]が、鎌首を立てゝズーッと娘の足元まで這って来た時は、田舎に馴れま
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