して手前《てめえ》金を幾ら取った」
 新「幾らにも何も取りは致しません」
 甚「分らねえ事を云うな、金を取らねえで何《な》んで殺した、金があるから殺して取ったろう、懐《ふところ》に有ったろう」
 新「金も何も無いので」
 甚「有ると思ったのが無《ね》えのか」
 新「ナニ然《そ》うじゃアございません、あれは私《わたくし》の女房でございます」
 甚「分らねえ事を云う、ナニ此畜生《こんちきしょう》、女房《かゝあ》を何《な》んで殺した、外《ほか》に浮気な事でもして邪魔になるから殺したのか」
 新「ナニ然《そ》うじゃア無いので」
 甚「何《ど》う云う訳だ」
 新「困りますナ、じゃア私《わたくし》が打明けてお話致しますが、貴方決して口外して下さるな」
 甚「なに、口外しねえから云えよ」
 新「本当でげすか」
 甚「為《し》ないよ」
 新「じゃア申しますが実は私《わたくし》はその、殺す気も何もなく彼処《あすこ》へ参りますと、あれがその、お化《ばけ》でな」
 甚「何がお化だ」
 新「私《わたくし》の身体へ附纒《つきまと》うので」
 甚「薄気味の悪い事を云うな、何が附纒うのだ」
 新「詳しい事を申しますが、私《わたくし》は根津七軒町の富本豊志賀と申す師匠の処へ食客《いそうろう》に居りますと、豊志賀が年は三十を越した女でげすが、堅い師匠で、評判もよかったが、私が食客になりまして、豊志賀が私の様な者に一寸《ちょっと》岡惚《おかぼれ》をしたのでな」
 甚「いやな畜生だ惚気《のろけ》を聞くんじゃアねえ、女を殺した訳を云えよ」
 新「それから私《わたくし》も心得違いをして、表向《おもてむき》は師匠と食客ですが、内所《ないしょ》は夫婦同様で只ぶら/\と一緒に居りました、そうすると此処《こゝ》へ稽古に参ります根津の総門内の羽生屋と申す小間物屋の娘がその、私に何《なん》だか惚れた様に師匠に見えますので」
 甚「うん、それから」
 新「それを師匠が嫉妬《やきもち》をやきまして、何も怪しい事も無いのにワク/\して、眼の縁《ふち》へポツリと腫物《できもの》が出来まして、それが斯《こ》う膨《は》れまして、こんな顔になり其の顔で私の胸倉を取って悋気《りんき》をしますから居《い》られませんので、私が豊志賀の家《うち》を駈出した跡で師匠が狂い死《じに》に死にましたので、死ぬ時の書置《かきおき》に、新吉と夫婦になる女は七人まで取殺すと云う書置がありましたので」
 甚「ふうん執念深《しゅうねんぶけ》え女だな、成程ふうん」
 新「それで、師匠が亡《なく》なりましたから、お久と云う土手で殺した娘が、連れて逃げてくれと云い、伯父が羽生村に居るから伯父を尋ねて世帯《しょたい》を持とうと云うので、それなら田舎へ行って、倶《とも》に夫婦になろうと云う約束で出て参ったので」
 甚「出て来てそれから」
 新「先刻《さっき》彼処《あすこ》へ掛ると雨は降出します、土手を下りるにも、鼻を撮《つま》まれるも知れません真の闇で、すると、お久の眼の下へポツリと腫物《できもの》みたような物が出来たかと思うと、見て居るうちに急に腫れ上りましてねえ、ヘエ、貴方死んだ師匠の通りの顔になりまして、膝に手を付きまして私《わたくし》の顔をじいッと見詰めて居ました時は私は慄《ぞ》っと致しましたので、ヘエ怖い一生懸命に私が斯《こ》う鎌で殺す気も何《なんに》もなく殺してしまって見ると、其様《そん》な顔でも何《なん》でもないので、私がしょっちゅう師匠の事ばかり夢に見るくらいでございますから、顔が眼に付いて居るので、殺す気もなくお久と云う娘を殺しましたが、綺麗な顔の娘が然《そ》う云うように見えたので、見えたから師匠が化けたと思って、鎌でやったので、ヘエ、やっぱり死んだ豊志賀が祟《たゝ》って居りますので、七人まで取殺すと云うのだから私の手をもって殺さしたと思うと、実に身の毛がよだちまして、怖かったの何《なん》のと、其の時お前さんが来て泥坊、と襟首を掴んだから一生懸命に身を振払って逃げ、まア宜《い》いと思うと、一軒家《いっけんや》が有ったから来たら、やっぱり貴方の家《うち》へ来たから、泡をくったのでねえ」
 甚「ふうんそれじゃア其の師匠は手前《てめえ》に惚れて、狂死《くるいじに》に死んで、外《ほか》の女を女房にすれば取殺すと云う書置の通り祟って居るのだな」
 新「祟って居るったって私《わたくし》の身体は幽霊が離れないのでヘエ」
 甚「気味《きび》の悪い奴が飛込んで来たな、薄気味《うすきび》の悪い、鎌を手前《てめえ》が持って居るから悪《わり》いのだ」
 新「鎌も其処《そこ》に落ちて有ったので、其処へお久が転んだので、膝の処へ少し疵《きず》が付き、介抱して居るうち然《そ》う見えたので、それで無茶苦茶にやったので、拾った鎌です」
 甚「そ
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