え》して居てくれゝば己も安心して家をお前に預けて明《あけ》るが、何も盗まれる物はねえが、一軒の主《あるじ》だから、おいお前此処でそうして留守居をしてくれゝば、己が帰《けえ》って来ても火は有るし、茶は沸いて居るし、帰って来ても心持がいゝ、己ア土手の甚藏と云う者だが、村の者に憎まれて居るのよ、それがノ口をきくのが江戸子同士でなけりゃア何《ど》うしても話が合わねえ、己は兄弟も身寄もねえし、江戸を喰詰めて帰れる訳でもねえから、己と兄弟分になってくんねえ」
 新「有難う存じますな、私《わたくし》も身寄兄弟も無い者で、少し訳があって参りました者でございますが、少し頼る処が有って参りました者で、此方《こちら》へ参ってから、だしぬけに亡《なく》なりましたので」
 甚「死んだのかえ」
 新「ヘエ其処《そこ》が、ヘエ何《なん》で、変になりましたので、ヘエ、何処《どこ》へも参る処は無いのでございますから、お宅を貸して下すって商いでもさして下されば有難い事で、私《わたくし》は新吉と申す者で、何分《なにぶん》親分|御贔屓《ごひいき》にお引立を願います」
 甚「話は早いがいゝが、其処《そこ》は江戸子《えどこ》だからのう、兄弟分の固めを仕なければならねえが、おいお前《めえ》田舎は堅えから、己の弟分だと云えば、何様《どんな》間違《まちげえ》が有ったってもお前他人にけじめ[#「けじめ」に傍点]を食う気遣《きづけえ》ねえ、己の事を云やア他人《ひと》が嫌がって居るくれえだからナ、其方《そっち》の強身《つよみ》よ、さア兄弟分《きょうでいぶん》の固めをして、お互《たげえ》にのう」
 新「ヘイ有難うございます、何分どうか、其の替り身体で働きます事は厭《いと》いませんから、どんな事でも仰しゃり付けて下さればお役には立ちませんでも骨を折ります」
 甚「お前《めえ》幾才《いくつ》だ」
 新「ヘエ二十二でございます」
 甚「色の白《しれ》え好男《いゝおとこ》だね、女が惚れるたちだね、酒が無《ね》えから兄弟分《きょうでえぶん》の固めには、先刻《さっき》一燻《ひとくべ》したばかりだから、微温《ぬるま》になって居るが、此の番茶を替りに、己が先へ飲むから是を半分飲みな」
 新「ヘエー有難うございます、恰《ちょう》ど咽喉《のど》も乾いて居りますから、エヽ有難うございます、誠に私《わたくし》も力を得ました」
 甚「おい兄弟分《きょうでえぶん》だよ、いゝかえ」
 新「ヘエ」
 甚「兄弟分に成ったから兄に物を隠しちゃアいけねえぜ」
 新「ヘエ/\」
 甚「お互《たげえ》に悪い事も善《い》い事も打明けて話し合うのが兄弟分だ、いゝか」
 新「ヘエ/\」
 甚「今夜土手で女を殺したのはお前《めえ》だのう」
 新「イヽエ」
 甚「とぼけやアがるなエ此畜生《こんちきしょう》、云いねえ、云えよ」
 新「な、何を被仰《おっしゃる》ので」
 甚「とぼけやアがって此畜生め、先刻《さっき》鎌を出したら手前《てめえ》の面付《つらつき》は変ったぜ、殺したら殺したと云えよ」
 新「何《ど》うもトヽ飛んでもない事を仰しゃる、私《わたくし》は何うもそんな、外《ほか》の事と違い人を殺すなぞと、苟《かり》にも私は、どうも此方様《こちらさま》には居《お》られません、ヘエ」
 甚「居られなければ出て行け、さア居られなければ出て行きや、無理に置こうとは云わねえ、兄弟分《きょうだいぶん》になれば善《い》い悪いを明《あか》しあうのが兄弟分だ、兄分《あにぶん》の己の口から縛らせる気遣《きづけえ》ねえ、殺したから殺したと云えと云うに」
 新「何うもそれは困りますね、何《なに》もそんな事を、何うも是は、何うも外の事と違いますからねエ、何うもヘエ、人を殺すなぞと、そんな私《わたくし》ども、ヘエ何うも」
 甚「此畜生分らねえ才槌《さいづち》だな、間抜め、殺したに相違ねえ、そんな奴を置くと村の難儀になるから、手前《てめえ》を追出す代りに、己の口から訴人して、踏縛《ふんじば》って代官所へでも役所へでも引くから然《そ》う思え」

        二十六

 新「何うも私《わたくし》はもうお暇《いとま》致します」
 甚「行きねえ、己が踏縛《ふんじば》るからいゝか」
 新「そんな、何うも、無理を仰しゃって、私《わたくし》が何《な》んで、何うも」
 甚「分らねえ畜生だナ、手前《てめえ》殺したと打明けて云えよ、手前の悪事を、己は兄分《あにぶん》だから云う気遣《きづけえ》はねえ、お互《たげえ》に、悪事を云ってくれるなと隠し合うのが兄弟分《きょうだいぶん》のよしみだから、是っぱかりも云わねえから云えよ、云わなければ代官所へ引張《ひっぱ》って行くぞ、さア云え」
 新「ヘエ、何うも、ち…些《ちっ》とばかり、こ…殺しました」
 甚「些とばかり殺す奴があるものかえ、女を殺
前へ 次へ
全130ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング