になっているから、此の物干伝いに伝わって行《ゆ》けば、何処《どこ》へか逃げられるとは思ったが、なか/\油断は出来ませんから、長物《ながもの》を抜いて新五郎が度胸をすえ、小窓から物干へ這出して来ます。すると捕手《とりて》の方も手当は十分に附いているから、もし此の窓から逃出したら頭脳《あたま》を打破《うちわ》ろうと、勝藏《かつぞう》と云う者が木太刀《きだち》を振上げて待って居る所へ、新五郎は斯《こ》う腹這《はらばい》になって頸《くび》をそうッと出した。すると、
 勝「御用だ」
 ピューッ[#「ピューッ」は底本では「ピュッー」]と来るやつを、身を退《ひ》き身体を逆に反《かえ》して、肋《あばら》の所へ斬込んだから、勝藏は捕者は上手だが物干から致してガラ/\/\どうと転がり落ちる。其の間に飛下りようとする。所が下には十分手当が届いているから下りる事が出来ません。すると丁度隣の土蔵が塗直しで足場が掛けてあって笘《とま》が掛っているから、それを潜《くゞ》って段々参ると、下の方ではワア/\と云う人声《ひとごえ》、もう然《そ》うなると、人が十人居ても五十人も居る様に思われますから、新五郎は窃《そっ》と音のしない様に笘を潜り抜けて、段々横へ廻って参り、此の空地《あきち》へ飛下り、彼方《あちら》の板塀を毀《こわ》して、向《むこう》の寺へ出れば逃《のが》れられようと思い、足場を段々に下りまして、もう宜《よ》かろう、と下を見ると藁《わら》がある。しめたと思ってドンと其処《そこ》へ飛下りると、
 新「ア痛タ……」
 と臀餅《しりもち》をつく筈《はず》です、其の下にあったのは押切《おしぎり》と云う物で、土踏まずの処を深く切込みましたから、新五郎ももう是までと覚悟しました。跛《びっこ》になっては、迚《とて》も遁《のが》れる事も出来ませんから、到頭《とうとう》縄に掛って引かれます。
 新「あゝ因縁は恐しいもの、三年|跡《あと》にお園を殺したも押切、今又押切へ踏掛けてそのために己《おれ》が縄に掛って引かれるとは、お園の怨《うらみ》が身に纒《まと》って斯《かく》の如くになること」
 と実に新五郎も夢の覚めた様になりましたが、是が丁度三年目の十一月二十日、お園の三回忌の祥月命日《しょうつきめいにち》に、遂に新五郎が縄目に掛って南の御役宅へ引かれると云う、是より追々怪談のお話に相成ります。

       
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