》ったなり口もきゝませんから、新五郎は手持無沙汰にお園の部屋を出ましたが、是が因果の始《はじま》りで、猶更お園に念がかゝり、敵《かたき》同士とは知らずして、遂に又お園に恋慕《れんぼ》を云いかけまするという怪談のお話、一寸|一息《ひといき》吐《つ》きまして、
十一
深見新五郎がお園に惚れまするは物の因果で、敵同士の因縁という事は仏教の方では御出家様が御説教をなさるが、どういう訳か因縁と云うと大概の事は諦めがつきます。
甲「どうしてあの人はあんな死様《しにざま》をしただろうか」
乙「因縁でげすね」
甲「あの人はどうしてあア夫婦中がいゝか知らん、あの不器量だが」
乙「あれはナニ因縁だね」
甲「なぜかあの人はあアいう酷《ひど》い事をしても仕出したねえ」
乙「因縁が善《い》いのだ」
と大概は皆因縁に押附《おっつ》けて、善いも悪いも因縁として諦めをつけますが、其の因縁が有るので幽霊というものが出て来ます。その眼に見えない処を仏教では説尽《ときつく》してございまするそうで、外国には幽霊は無いかと存じて居りました処が、先達《せんだっ》て私《わたくし》の宅へさる外国人が婦人と通弁が附いて三人でお出《いで》になりまして、それは粋《いき》な外国人で、靴を穿いて来ましたが、其の靴をぬいで隠《かくし》から帛紗《ふくさ》を取出しましたから何《なん》の風呂敷包かと思いますと、其の中から上靴を出してはきまして、畳の上へ其の上靴で坐布団の上へ横ッ倒しに坐りまして、
外「お前の家《うち》に百|幅《ぷく》幽霊の掛物があるという事で疾《とく》より見たいと思って居たが、何卒《どうぞ》見せて下さい」
という事。是は私《わたくし》がふと怪談会と云う事を致した時に、諸先生方が画《か》いて下すった百幅の幽霊の軸がございますから、是を御覧に入れますと、外国人の事でございますから、一々是は何《なん》という名で何という人が画いたのかと云う事を、通弁に聞いて手帖に写し、是《こ》れは巧《うま》い、彼《あ》れは拙《まず》いと評します所を見ると、中々眼の利いたもので、丁度其の中で眼に着きましたのは菊池容齋《きくちようさい》先生と柴田是眞《しばたぜしん》先生の画いたので、是は別して賞《ほ》められました。そのあとで茶を点《い》れて四方八方《よもやま》の話から、幽霊の有無《ありなし》の話をしまし
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