敷が直《じき》に改易に成ってしまい、仕様がないから深川櫓下の花屋へ此の娘《こ》を頼んで芸妓《げいしゃ》に出して、私の喰い物にしようと云う了簡でしたが、又私が網打場の船頭の喜太郎《きたろう》という者と私通《いたずら》をして、船で房州《ぼうしゅう》の天津《あまつ》へ逃げましたがね、それからというものは悪い事だらけさ、手こそ下《おろ》して殺さないでも口先で人を殺すような事が度々《たび/\》で、私の為に身を投げたり首を縊《くゝ》って死んだ男も二三人あるから、皆《みんな》其の罰《ばち》で今|斯《こ》う遣って居るのも、彼《あ》の時に斯ういう事をしたから其の報いだと諦め、漸々《よう/\》改心をしましたのさ、仕方がないから頭髪《あたま》を剃《そり》こかし破れ衣を古着屋で買ってね、方々托鉢して歩いて居る中《うち》、此の観音様のお堂には留守居がないからお比丘さん這入って居ないかと村の衆に頼まれるから、仮名附のお経を買って心経《しんぎょう》から始め、どうやら斯うやら今では観音経ぐらいは読めるように成ったが、此の節は若い時分の罪滅《つみほろぼ》しと思い、自分に余計な物でもあると困る人にやって仕舞うくらいだから、何も物は欲しくありません、村の衆が時々畠の物なぞを提げて来てくれるから、もう別にうまい物を喰度《たべた》いという気もなし、只観音様へ向ってお詫事をして居るせえか、胸の中《うち》の雲霧《くもきり》が晴れて善に赴《おもむ》いたものだから、皆さんがお比丘様/\と云って呉れ、此の観音様も段々繁昌して参り、お比丘さんにお灸《きゅう》を据《す》えて貰えのお呪《まじない》をして貰い度《たい》のといって頼みに来るから、私も何も知らないが、若い時分から疝気《せんき》なら何処《どこ》が能《い》いとか歯の痛いのには此処《こゝ》が能《よ》いとか聞いてるから据えて遣ると、向《むこう》から名を附けて観音様の御夢想《ごむそう》だなぞと云って、今ではお前さん何不足なく斯《こ》う遣って居ますが今日|図《はか》らずお前達に逢って、私は尚《な》お、観音様の持って入らっしゃる蓮《はす》の蕾《つぼみ》で脊中を打たれる様に思いますよ、まだ二人とも若い身の上だから、是から先《さ》き悪い事はなさらないように何卒《どうぞ》気をお附けなさい、年を老《と》ると屹度《きっと》報《むく》って参ります、輪回応報《りんねおうほう》という事はない
前へ
次へ
全260ページ中240ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング