お帰り」
 と云われ心細いから惣吉は帰って観音堂へ駈上《かけあが》って見ると情ないかな母親は、咽喉《のど》を二巻《ふたまき》程丸ぐけで括《くゝ》られて、虚空を掴んで死んで居る。脊負《せお》った物も亦《また》母が持って居た多分の金も引浚《ひきさら》って彼《か》の尼が逃げました。
 惣「アヽお母様《っかさま》、何《ど》うして絞殺《しめころ》されたかねえ」
 と頸《くび》に縛り付けてある丸ぐけを慄《ふる》えながら解いて居る処へ、通り掛った者は、藤心村《ふじごゝろむら》の観音寺の和尚|道恩《どうおん》と申しまして年とって居りますが、村方では用いられる和尚様、隣村に法事があって男を一人連れて帰りがけ、
 和尚「急がんじゃアいかん」
 男「何《なん》だかヒイ/\という声が聞える様に思うだ」
 和「ヒイ/\と」
 男「怖《おっ》かねえと思って、此処《こゝ》はね化物が出る処《とこ》だからねえ」
 和「化物なぞは出やせん」
 男「けれども原中でヒイ/\という声が訝《おか》しかんべえ」
 和「何も出やアしない」
 男「あれ冗談じゃアねえ、だん/\、あれ/\」
 和「彼《あ》れは観音様のお堂だ、彼処《あすこ》に人が居るのではないか、暗くって見えはせん提灯《ちょうちん》出しな」
 と提灯を引ったくって和尚様が来て見ると、縊《くび》り殺された母に縋《すが》り付いて泣いて居る。
 和「どういう訳か」
 と聞くと泣いてばかり居て頓《とん》と分りません。漸《ようや》くだまして聞くと是れ/\という。
 和「飛んだ事だ」
 と直《すぐ》に供の男を走らして村方へ知らせますと、百姓が二三人来て死骸と共に惣吉を藤心村の観音寺へ連れて来て、段々聞くと、便《たよ》る処もない実に哀れの身の上でありますから、
 和「誠に因縁の悪いので、親の菩提の為、私《わし》が丹精して遣るから、仇《かたき》を討つなぞということは思わぬが宜《い》い、私の弟子になって、母親や兄《あに》さんの為に追善供養を吊うが宜い」
 と此の和尚が丹精して漸《ようや》く弟子となり、頭を剃《そ》りこぼち、惣吉が宗觀《そうかん》と名を替えて観音寺に居る処から、はからずも敵《かたき》の様子が知れると云うお長いお話。一寸一息吐きまして。

        八十二

 扨《さて》一席申上げます、久しく休み居りました累ヶ淵のお話は、私《わたくし》も昨冬《さくふゆ
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