ん》ですが、お隅|様《さん》に只今の様な事をしたは富五郎本心でしたと思召しての御立腹なれば御尤もでございます」
母「尤もと思うなら出て行《い》け」
富「私《わたくし》は大変酔ってはおりますが富五郎も武士《ぶし》でげす、御当家の旦那様に助けられた事は忘却致しません、あゝ有難い事であゝ簀巻にして川へ投り込まれる処を助けられ、斯《かく》の如く面倒を見て下すって、江戸へ帰る時は是々すると仰しゃって、実に有難い事で、江戸へ行っても御当家の御恩報じお家《いえ》の為になる様心得ております」
母「そう心得ておるなればなぜお隅にあゝいう挙動《まね》エする」
富「其処《そこ》を申します、其処が旦那様のお為を思う処、旦那様は世間見ずの方、江戸へも余り入らしった事もない、殊《こと》にはあなた様は其の通り田舎|気質《かたぎ》の結構な方、惣吉様は子供衆で仔細ないが、お隅様も結構な方でございますが、前々《まえ/\》承れば、水街道の麹屋で客の相手に出た方、縁あって御当家へいらっしゃったが、お隅様のまえで申しては済みませんが、若《も》しお隅様が不実意な浮気心でもあっては惣次郎様のお為にもならぬと思って、どういう御心底か一寸只今気を引いた処、どうもお隅様の御心底是には実に恐れ入りました、富五郎安心しましたが、処をどうも薪《まき》でもってポンと頭をどうも情《なさけ》ない思召しと思う」
母「あゝ云う言抜《いいぬけ》を吐《こ》きゃアがる、気い引《ひい》て見たなどゝ猶更置く事は出来ねえから出て行け」
隅「お母様お腹立でございましょう、御気性だから、富さん、お前は酒が悪いよ、お酒さえ慎めば宜しい、旦那様のお耳に入れない様にするから」
富「エ、もう飲みませんとも」
母「まアお前|彼方《そっち》へ引込《ひきこ》んで、私《わし》が勘弁出来ぬ、本当なればお隅が先へ立って追出すというが当然《あたりまい》だが、こういう優しげな気性だから勘弁というお隅の心根エ聞けば、一度は許すが、今度|彼様《あんな》挙動《まね》エすれば直《す》ぐ追出すからそう思え」
富「恐入りました」
と是からこそ/\部屋へ這入って、と見ると頭に血が染《にじ》みました。
富「お隅は万更《まんざら》でもねえ了簡であるのに、あゝ太《ふて》え婆アだ」
なに自分が太い癖に何卒《どうか》してお隅を手に入れ様と思ううち、ふと思い出して胸へ浮んだ
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