五個《いつつ》ばかり喫《た》べ、それで往《い》けば宜しいのに、先へ行って腹が空ってはならんから二つ三つ用意に持って行こうと、右袂《こちら》へ二つ左袂《こちら》へ三つ懐から背中へ突込《つっこ》んだり何かして、盗んだなりこう起《た》つと、向《むこう》の畑の間から百姓がにょこり[#「にょこり」に傍点]と出た時は驚きました。
 百姓「何《な》んだか、われは何んだか」
 富「ヘエ、誠にどうも厳しい暑さでお暑い事で」
 百「此の野郎め、まア生空《なまぞら》遣《つか》やアがって、此処《こゝ》を瓜の皮だらけにしやアがった、汝《われ》瓜食ったな」
 富「どう致しまして、腹痛でございますから押えて少し屈《こゞ》んでおりましたが、暑気《しょき》に中《あた》っておりますので、先《せん》から瓜の皮はありますが、取りは致しませぬて」
 百「此の野郎懐へ入れやアがって、生空つかやアがって、瓜盗んでお暑うございますなどと此の野郎」
 ポカリ撲倒《はりたお》しますと、
 富「あ痛《いた》たゝ」
 と蹌《よろ》ける途端に袂《たもと》や懐から瓜が出る。其の内に又二三人百姓が出て来て、忽《たちま》ち山倉は名主へ引かれ、間が悪い事に名主の瓜畑だから八釜《やかま》しく、庭へ引かれ、麻縄で縛られますと、廃《よ》せばよいに名主惣次郎は情深い人だから縁側へ煙草盆を持ち出して参って、
 惣「此奴《こいつ》かノ真桑瓜を食ったのは」
 男「ヘエ此の野郎で、草むしりに出ておりますと、瓜畑の中からにょこり[#「にょこり」に傍点]と起《た》ちアがったから、何するといったら厳しいお暑さなんてこきアがって、誰《たれ》もいやすめえと思って、瓜の皮があるから盗んだんべえと撲《ぶ》つと懐からも袂からも瓜が出たゞ何処《どこ》の者か江戸らしい言葉だ」
 惣「お前が真桑瓜を盗んだか」

        六十

 富「ヘエ/\恥入りました事で、手前|主名《しゅめい》は明《あか》し兼ねまするが、胡乱《うろん》と思召《おぼしめ》すなれば主名も申し上げまするが、手前事は元千百五十石を取った天下の旗下《はたもと》の用人役をした山倉富右衞門の忰《せがれ》富五郎と申す者|主家《しゅか》改易になり、常陸に知己《しるべ》がある為是へ金才覚に参って見るに、先方は行方知れず、余儀なく、旅費を遣い果してより、実は食事も致しませんで、空腹の余り悪い事とは知りながら二つ
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