めじゃア」
 と鳥居を抱えて、
 花「大きな鳥居じゃアないか」
 と金剛力を出して一振《ひとふり》すると恐ろしい力、鳥居は笠木《かさぎ》と一文字《いちもんじ》が諸《もろ》にドンと落ちた。剣術遣が一刀を振上げて居る頭の処へ真一文字に倒れ落ちたから、驚きましたの驚きませんのと、胆《きも》を挫《ひし》がれてパッと後《あと》へ退《さが》る。見物はわい/\いう。其の勢いに驚き何《ど》のくらいの力かと安田は迚《とて》も敵《かな》わぬと思って抜刀《ぬきみ》を持ってばら/\逃《にげ》ると、弥次馬に、農業を仕掛けて居た百姓衆が各々《おの/\》鋤《すき》鍬《くわ》を持って、
 百姓「撲殺《ぶちころ》してしまえ」
 とわい/\騒ぐから、三人の剣客者は雲|霞《かすみ》と林を潜《くぐ》って逃げました。

        五十九

 花車「ハ、逃げやアがった弱《よわ》え奴だ、サア案じはねえ、私《わし》が送って行《ゆ》きましょう」
 と脱いだ衣服を着て煙草入を提げ、惣次郎を送って自分は法恩寺村の場所へ帰った。角力は五日間首尾能く打って帰る時に、
 花「鳥居の笠木を落《おと》したから、旦那様鳥居を上げて下さらんでは困る」
 と云うので惣次郎が金を出して鳥居を以前の通りにしました、其の鳥居は只今では木なれども花車の納めました石の鳥居は天神山に今にあります。場所をしまって花車は江戸へ帰らんければならんから、帰ってしまった後《あと》は惣次郎は怖くって他《た》へは出られません、安田一角は喧嘩の遺恨《いこん》、衆人の中で恥を掻いたから惣次郎は助けて置かぬ、などと嚇《おど》しに人に逢うと喋るから怖くって惣次郎は頓《とん》と外出《そとで》を致しません、力に思う花車がいないから村の者も心配しております。余り家《うち》に許《ばか》り蟄《ちっ》しておりますから、母も心配して、惣次郎が深く言交《いいかわ》した女故間違も出来、其の女の身の上はどうかと聞くに、元|武士《さむらい》の娘で親父《おやじ》もろ共浪人して水街道へ来て、親の石塔料の為奉公していると聞き、其の頃は武士を尊《たっと》ぶから母は感心して、然《そ》ういう者なれば金を出して、当人が気に適《い》ったならどうせ嫁を貰わんではならんから貰い度《た》いと、水街道の麹屋へ話してお隅を金で身受《みうけ》して家《うち》へ連れて来てまず様子を見るとしとやかで、器量といい、誠に
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