っちゃりした少し丸形《まるがたち》のまことに気の利いた、苦労人の果《はて》と見え、万事届きます。殿様の御酒の相手をすれば、
 新「熊が酌をすれば旨い」
 などと酔った紛れに冗談を仰しゃると、此方《こちら》はなか/\それ者《しゃ》の果と見えてとう/\殿様にしなだれ寄りましてお手が付く。表向《おもてむき》届けは出来ませんがお妾と成って居る。するともと/\狡猾な女でございますから、奥方の纔訴《ざんそ》を致し、又若様の纔訴を致すので、何となく斯《こ》う家がもめます。いくら言っても殿様はお熊にまかれて、煩《わずら》って居る奥様を非道な事をしてぶち打擲《ちょうちゃく》を致します。もう十九にもなる若様をも煙管《きせる》を持って打《ぶ》つ様な事でございますから、
 新五郎「あゝ親父《おやじ》は愚《ぐ》な者である、こんな処にいては迚《とて》も出世は出来ぬ」
 と若気の至りで新五郎と云う惣領の若様はふいと家出を致しますると、お熊はもう此の上は奥様さえ死ねば自分が十分|此処《こゝ》の奥様になれると思い、
 熊「わたしは何《ど》うも懐妊した様でございます、四月から見るものを見ませぬ酸《す》ッぱい物が食べたい」
 何《なん》のと云うから殿様は猶更《なおさら》でれすけにおなり遊ばします。追々其の年も冬になりまして、十一月十二月となりますと、奥様の御病気が漸々《だん/\》悪くなり、その上寒さになりましてからキヤ/\さしこみが起り、またお熊は、漸々お腹が大きくなって身体が思う様にきゝませんと云って、勝手に寝てばかり居るので、殿様は奥方に薬一服も煎《せん》じて飲ませません。只勘藏ばかりあてにして、
 新「これ/\勘藏」
 勘「ヘエ、殿様貴方御酒ばかり召上って居て何《ど》うも困りますなア奥様は御不快で余程御様子が悪いし、殊《こと》には又お熊|様《さん》はあゝやって懐妊だからごろ/″\して居り、折々《おり/\》奥様は差込むと仰しゃるから、少しは手伝って頂きませんじゃア、手が足りません、私《わたくし》は若様のお乳を貰いに往《い》くにも困ります」
 新「困っても仕方がない、何か、さしこみには近辺の鍼医《はりい》を呼べ、鍼医を」
 と云うと、丁度|戸外《おもて》にピー、と按摩《あんま》の笛、
 新「おゝ/\丁度按摩が通るようだ、素人《しろうと》療治ではいかんから彼《あ》れを呼べ/\」
 勘「ヘエ」
 と按摩を
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