っても向《むこう》から返したこたア無いくらいだから、其様《そんな》に気を揉むこたア無いけれども、仕方がねえから大屋さんを起すが宜《い》い」
●「アノ奥の一人者の内に食客が居るから、彼処《あすこ》へ行って彼《あ》の人に行って貰うが宜《よ》うございましょう」
△「じゃア連れて来ましょう」
と吊提燈を提げて奥へ行《ゆ》くと、戸袋の脇から真黒な面で目ばかりピカ/\光る奴が二人這出したから、
△「ウワアヽヽ何《なん》だこれおどかしちゃアいけない」
と云う中《うち》に、二人とも一生懸命で路次の戸を打砕《ぶちこわ》して逃出しました。
△「アヽ何《なん》だ、本当にモウ何《ど》うも胸を痛くした、こりゃア彼奴《あいつ》が泥坊だ、私は大きな犬が出たと思って恟《びっく》りした、あゝこれだ/\これだから一人者を置いてはならないと云うのだが、家主《いえぬし》が人が善《い》いから、追出すと意趣返しをすると云うので怖がって置くのだが宜《よ》くない、此処《こゝ》にちゃんと葛籠があるわ、上方者だと思って馬鹿にして図々しい奴だ、一つ長屋に居て斯《こ》んな事をするのは頭隠して尻隠さず、葛籠を置いて行くから直ぐに知れて仕舞うんだ、何か代物《しろもの》が残って居るかも知れねえから見てやろう、ウワアお長屋の衆」
と云うから驚いて外《ほか》の者が来て見ると、葛籠が有るから、
●「おゝ彼処《あすこ》に葛籠がある、好《い》い塩梅《あんばい》だ、おや、中に、ウワア、お長屋の衆」
と来る奴も/\皆お長屋の衆と云う大騒ぎ。すると二つ長屋の事でございますから義理合《ぎりあい》に宗悦の娘お園が来て見ると恟《びっく》りして、
園「是は私のお父《とっ》さんの死骸|何《ど》うしたのでございましょう、昨日《きのう》家《うち》を出て帰りませんから心配して居りましたが」
△「イヤそれは何《ど》うもとんだ事」
というので是から訴えになりましたが、葛籠に記号《しるし》も無い事でございますから頓《とん》と何者の仕業《しわざ》とも知れず、大屋さんが親切に世話を致しまして、谷中《やなか》日暮里《にっぽり》の青雲寺《せいうんじ》へ野辺送りを致しました。これが怪談の発端でござります。
六
引続きまして申上げまする。深見新左衞門が宗悦を殺しました事は誰《たれ》有って知る者はござりません。葛籠に記号《しるし》も
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