易に寄り付きません。新吉もお累が死んで仕舞った後《あと》は、三藏から内所で金を送る事もなし、別に見当《みあて》がないから宿替《やどがえ》をしようと、欲しがる人に悉皆《そっくり》家を譲って、時々お賤の処へしけ込みます。其の間は仕方がないから、水街道へ参って宿屋へ泊り、大生郷の宇治の里へ参って泊りなどして、惣右衞門が留守だと近々《ちか/″\》しけ込みます。世間でもかんづいて居るから新吉は憎まれ者で、誰《たれ》も付合う人がない。横曾根|辺《あたり》の者は新吉に逢っても挨拶もせぬようになりました。新吉はどん/\降る中を潜《そ》っと忍んでお賤の処《とこ》へ来ました。
 新「おい/\お賤さん」
 賤「あい新吉さんかえ」
 新「あゝ明けておくれな」
 賤「あい能くお出《いで》だね、傘なしかえ」
 新「傘は有ったが借傘《かりがさ》で、柄漏《えもり》がして、差しても差さねえでも同じ事でずぶ濡だ、旦那の病気は何《ど》うだえ」
 賤「お前がちょい/\見舞に来てくれるので、新吉は親切な者だ心に掛けてちょく/\来て呉れるが感心だって、悦んで居るが、年が年だからねえ、何《なん》だって五十五だもの、病気疲れですっかり寝付いて居るからお上《あが》りよ」
 新「そうかえ夜来るのも極りが悪い様だが、実は少し小遣《こづけえ》が無くなって、外《ほか》へ泊る訳にいかねえから、看病かた/″\来たのだが、能く御新造さんが承知で旦那を此方《こっち》へよこして置くね」
 賤「なに碌《ろく》な看病もしないけれども、お宅《うち》では気に入らないと云ってね、気に入った処で看病をして貰う方がよいと人が来ると憎まれ口を利くから、お内儀《かみ》さんも若旦那も此の二三日来ないから、私一人で看病するのだから実は困るよ、困るけれども其の代りには首尾がよくって、種々《いろ/\》旦那に話して置いた事もあるのだからね、遺言状まで私は頼んで書いて貰って置いたから、今能く寝付いて居るし、遊んでおいでな、揺《ゆさ》ぶっても病気疲れで能く寝て居るから、茲《こゝ》で何を云っても旦那に聞える気遣《きづかい》は無し、他に誰も居ないから、真に差向いで話しするがね、私は旦那に受出されて此処《こゝ》へ来て、お前とは江戸に居る時分から、まア心易《こゝろやす》いが、私の方で彼様《あんな》事を云出してから、お前も厭々ながらお内儀《かみさん》まであゝ云う訳になって苦
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