うして這入《へえ》ったかと見ると、お前の処の姉御、お累さんが赤ん坊を抱いて、ずぶ濡れで、痩せた手を己の胸の上へ載せて、よう新吉さんを帰《けえ》しておくんなさいよ、新吉さんを帰しておくんなさいよと云って、己が胸を押圧《おっぺしょ》れる時の、怖《こえ》えの怖くねえのって、己はせつなくって口イ利けなかった」
 新「夢を見たのだよ、種々《いろん》な事で気を揉むから然《そ》う云う夢を見るのだ、夢だよ」
 作「夢で無《ね》えよ、あゝ彼処の二畳の隅に樽があるだろう」
 新「ウン」
 作「樽の上に簑《みの》が掛けてある」
 新「ウン、ある」
 作[#「作」は底本では「新」]「簑の掛けてある処に赤ん坊を抱いて立って居るよう」
 新「よせ畜生、気の故《せい》だ」
 作「気の故じゃア無え、あゝ怖《おっ》かねえ、あれ/\」
 新「おい潜り込んで己の処へ這入《へえ》って来ちゃアいけねえ、仕様がねえなア」
 とん/\、
「御免なさい/\」
 新「誰だい」
 作「また来た、あゝ怖っかねえ/\」
 新「誰だい」
 男「えゝ新吉さんは此方《こちら》にお出《いで》なさいますか、ちょっくら帰《けえ》って、家《うち》は騒ぎが出来ました、お累さんが飛んだ事になりましたから方々《ほう/″\》捜して居たんだ、直《すぐ》に帰《けえ》って下せえ」
 作「誰だか」
 新「誰だか見な」
 作「怖くって外へは出られねえ、皆《みんな》此処《こゝ》に居るだけれども、中々歩く訳にいかねえ、足イすくんで歩かれねえ」

        四十六

 新「何方《どなた》でございます」
 とガラリと明けて見ると村の者。
 男「やア新吉さん、居たか、あゝ好《よ》かった、さア帰《けえ》って、気の毒とも何《なん》とも姉御の始末が付かねえ、何《ど》うも捜したの捜さねえのって直ぐ帰《けえ》らないではいけねえ、届ける所へ届けて、名主様へも話イしてね、困るから、さア帰《けえ》って」
 と云われ、新吉は何《なん》の事だかとんと分りませんが、致し方なく夜明け方に帰りますると、情ないかな、女房お累は、草苅鎌の研澄《とぎすま》したので咽喉笛《のどぶえ》を掻《かき》切って、片手に子供を抱いたなり死んで居るから、ぞっとする程凄かったが、仕方がないから気が狂《ちが》ってなどと云立て、先《ま》ず名主へも届けて野辺送りをする事になりました。それからは懲りて三藏も中々容
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