生郷辺で一杯《いっぺえ》遣って日を暮さなければ成らねえ、仕方がねえから今日は家《うち》に寝ようと思って」
 作「家に寝るって、己《おら》が困るから行ってよう」
 新「コウ/\見ねえ/\」
 作「何《なん》だか」
 新「妙な事がある、己《おれ》の家に蚊帳が釣ってある」
 作「ハテ是は珍らしいなア、是は評判すべえ」

        四十三

 新「其様《そん》な余計な憎まれ口をきくなえ、今|行違《ゆきちが》ったなア三藏だ、己が留守に来やアがって蚊帳ア釣って行《い》きやアがったのだな、斯《こ》んな大きな蚊帳が入《い》るもんじゃアねえ、蚊帳を窃《そっ》と畳んで、離れた処《とけ》え持って行って質に入れゝば、二両や三両は貸すから、病人に知れねえ様に持出そう」
 作「だから金と云うものは何処《どこ》から来るか知れねえなア、取るべえ」
 新「手前《てめえ》ひょろ/\していていけねえ、病人が眼を覚《さま》すといけねえから」
 と云うが、酔っておりますから階子《はしご》に打突《ぶっつか》って、ドタリバタリ。是では誰にでも知れますが、新吉が病人の頭の上からソックリ蚊帳を取って持出そうとすると、お累は存じて居りますから、
 累「旦那様お帰り遊ばせ」
 新「アヽ眼が覚めたか」
 累「はい、貴方此の蚊帳を何《ど》うなさいます」
 新「何うするたって暑ッ苦しいよ、今友達を連れて来たが、狭い家《うち》にだゞっ広《ぴろ》い大きな蚊帳を引摺り引廻《ひんまア》して、風が這入らねえのか、暑くって仕様がねえから取るのだ」
 累「坊が蚊に螫《く》われて憫然《かわいそう》でございますから、何卒《どうか》それだけはお釣り遊ばして」
 新「少し金が入用《いりよう》だからよ、これを持って行って金を借りるんだ、友達の交際《つきあい》で仕様がねえから持って行くよ」
 累「はい、それをお持遊ばしては困りますから何卒《どうぞ》お願いで」
 新「お願いだって誰がこんな狭い家《うち》へ大きな蚊帳を引摺り引廻《ひんまわ》せと云った、茲《こゝ》は己の家《うち》だ、誰が蚊帳を釣った」
 累「はい今日《こんにち》兄が通り掛りまして、手前は憎い奴だが如何にも坊が憫然だ、蚊ッ喰《くい》だらけになるから釣って遣ろうと申して家から取寄せて釣ってくれましたので」
 新「それが己の気に入らねえのだ、よ、兄と己は縁が切れて居る、手前《てめえ》は己の
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