方《そっち》へ遣っちまっちゃア見る事が出来やあしねえ、本当にこんな金目の物を一時《いちどき》に取った程|楽《たのし》みな事《こた》アねえぜ、コウ余《あんま》り明る過ぎらア、行燈へ何か掛けねえ」
甚「何を掛けよう」
○「着物でも何《なん》でも宜《い》いから早く掛けやナ」
甚「着物だって着る物がありゃア何も心配しやアしねえ」
○「何《なん》でも薄ッ暗くなるようにその襤褸《ぼろ》を引掛《ひっか》けろ、何でも暗くせえなれば宜いや、オ、封印が附いてらア、エヽ面を出すな、手前《てめえ》は食客《いそうろう》だから主人《あるじ》が見てそれから後で見やアがれ」
甚「ウン、ナニ食客でも主人でも露顕《ろけん》をして縛られるのは同罪だよ」
○「そりゃア云わなくっても定《きま》ってるわ」
と云うので是から封印を切って、
○「何だか暗くって知れねえ」
甚「どれ見せや」
○「しッしッ」
五
甚「兄い何を考《かんげ》えてるんだ」
○「何《ど》うも妙だなア、中に油紙《あぶらッかみ》があるぜ」
甚「ナニ、油紙がある、そりゃア模様物や友禅《ゆうぜん》の染物が入《へえ》ってるから雨が掛ってもいゝ様に手当がして有《ある》んだ」
○「敷紙が二重になってるぜ」
と云いながら、四方が油紙の掛って居る此方《こちら》の片隅を明けて楽みそうに手を入れると、グニャリ、
○「おや」
甚「何《なん》だ/\」
○「変だなア」
甚「何だえ」
○「ふん、どうも変だ」
甚「然《そ》う一人でぐず/\楽まずに些《ちっ》と見せやな」
○「エヽ黙ってろ、何だか坊主の天窓《あたま》みた様な物があるぞ」
甚「ウン、ナニ些とも驚く事《こた》アねえ、結構じゃアねえか」
○「何が結構だ」
甚「そりゃアおめえ踊《おどり》の衣裳だろう、御殿の狂言の衣裳の上に坊主の髢《かつら》が載ってるんだ、それをお前《めえ》が押えたんだアナ」
○「でも芝居で遣う坊主の髢はすべ/\してるが、此の坊主の髢はざら/\してるぜ」
甚[#「甚」は底本では「新」]「ナニざら/\してるならもじがふら[#「もじがふら」に傍点]と云うのがある、きっとそれだろう」
○「ウン然《そ》うか」
甚「だから己《おれ》に見せやと云うんだ」
○「でも坊主の天窓の有る道理はねえからなア、まア/\待ちねえ己が見るから」
とま
前へ
次へ
全260ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング