新吉さん」
新「おや作さん久しくお目に掛りませんで」
作「塩梅《あんべい》が悪《わり》いてえが何《ど》うかえ」
新「何うも快《よ》くなくって困ります」
作「はア然《そ》うかえ能《よ》くまア心に掛けて寺参りするてえ、お前《めえ》の様な若《わけ》え人に似合わねえて、然う云って居る、えゝなアに彼《あれ》は名主様の妾よ」
新「ウン、アヽ江戸者か」
三十八
作「深川の櫓下《やぐらした》に居たって、名前《なめえ》はおしずさんと云って如才《じょさい》ねえ女子《あまっこ》よ、年は二十二だと云うが、口の利き様は旨《うめ》えもんだ、旦那様が連れて来たゞが、家《うち》にも置かれねえから若旦那や御新造様と話合で別に土手下へ小さく一軒|家《いえ》え造って江戸風に出来ただ、まア旦那が行かない晩は淋しくっていけねえから遊びに来《こ》うと云うから、己が詰らねえ馬子唄アやったり麦搗唄《むぎつきうた》は斯《こ》う云うもんだって唄って相手をすると、面白がって、それえ己がに教えてくれろなどと云ってなア、妙に馬士唄《まごうた》を覚えるだ、三味線《さみせん》弾いて踊りを踊るなア、食物《くいもの》ア江戸口で、お前《めえ》塩の甘たっけえのを、江戸では斯う云う旨《うめ》え物《もん》喰って居るからって、食物《くいもな》ア大変|八釜《やかま》しい、鰹節《かつぶし》などを山の様に掻いて、煮汁《にしる》を取って、後《あと》は勿体ないと云うのに打棄《うっちゃ》って仕まうだ、己淋しくねえように、行って三味線弾いては踊りを踊ったり何かするのだがね彼処《あすこ》は淋しい土手下で、余《あんま》り三味線弾いて騒ぐから、狸が浮れて腹太鼓を敲《たゝ》きやアがって夜が明けて戸を明けて見ると、三匹|位《ぐれ》え腹ア敲き破ってひっくり返《けえ》って居る」
新「嘘ばっかり」
作「本当だよ」
賤「一寸《ちょいと》/\作さん、何《なん》にも見る処《とこ》が無いから、もう行こう」
作「えゝ参《めえ》りましょう」
賤「一寸《ちょいと》作さん今話をして居た人は何所《どこ》の人」
作「彼《あ》れは村の新吉さんてえので」
賤「私は見たような人だよ」
作「見たかも知んねえ江戸者だよ」
賤「おや然《そ》うかい、一寸《ちょっと》気の利いたおつな人だね」
作「えゝ極《ごく》柔和《おとな》しい人で、墓参《はかめえ》りば
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