さア此方《こちら》へ」
新「ヘエ何《ど》うも誠に久しく御無沙汰致しました、御機嫌宜しゅう、田舎へ引込《ひきこ》みましてからは手紙ばかりが頼りで、頓《とん》と出る事も出来ません、養子の身の上でございますからな、此の度《たび》は伯父が大病でございまして、さぞお長屋の衆の御厄介だろうと思い実は彼方《あちら》の兄とも申し暮しておりました、急いで参る積《つもり》でございますが何分にも道路《みち》が悪うございまして、捗取《はかど》りませんで遅う成りました」
男「何《ど》う致しまして、大層お見違え申す様に立派にお成りなすって、お噂ばかりでね、伯父さんも悦んでね、彼《あれ》も身が定まり、田舎だけれども良い処へ縁付《かたづ》き、子供も出来たってお噂ばかりして、実に何うも一番古くお長屋にお住いなさるから、看病だって届かぬながら、お長屋の者が替り/\来て見ても、あゝ云う気性だから、お前さんばかり案じて、能《よ》くマア早くお出《いで》なすった、さア此方《こっち》へ」
新「ヘエ、是はお婆さん、其の後《ご》は御無沙汰致しました」
婆「おやまア誠に暫《しばら》く、まア、めっきり尤《もっとも》らしくおなりなすったね、勘藏さんも然《そ》う云って居なすった、彼《あれ》も女房を持ちまして、児《こ》が出来て、何月が産月だって、指を折って楽《たのし》みにして、病気中もお前さんの事ばかり云って、外《ほか》に身寄親類はなし、手許《てもと》へ置いて育てたから、新吉はたった一人の甥《おい》だし、子も同じだと云って、今もお前さんの噂をして、楽みにしておいでなさるからね、此度《こんど》ばかりはもう年が年だから、大した事はない様だが、長屋の者も相談してね、だけども養子では有るし、お呼び申して出て来て、何《なん》だ是っぱかりの病気に、遠い処から呼んでくれなくも宜《よ》さそうなもんだなどと云って、長屋の者も余《あんま》りだと、新吉さんに思われても、何《なん》だと云って、長屋の者、行事の衆と種々《いろ/\》相談してね、私の夫《うち》の云うには、然《そ》うでない、年が年だからもしもの事が有った日にゃア、長屋の者も付いて居ながら知らして呉れそうなものと、又新吉さんに思われても成らんとか何《なん》とか云って、長屋の者も心配して居て、能《よ》くねえ、何《ど》うも、然うだって、大層だってね、勘藏さんがねえ、彼《あれ》もマア田舎へ
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