いう身の上にゃア往《い》かないてえんで」
美「何うぞ此方《こっち》へお這入りなすって………お初にお目に懸ります、かねてお噂には聞いて居りましたが、さア此方へお這入んなさい………この火をなんして上げな」
ふみ「お初にお目に懸ります、新助はお心安いそうでございますが、私《わたくし》はお目に懸った事も無いに、新助が彼《あ》んな訳に成りましてから、だん/\零落いたして………親子の難儀を三八さんが可愛相と仰しゃって下さって、此方様《こちらさま》まで御無理を願いに上って………お蔭様で親子の命が助かります、誠にお気の毒様で」
庄「お、いゝや御心配しなさんな、三八さん私《わたくし》は何でもお力に成りますから、まア/\心配しなさんな」
 と庄三郎親子ぐるみ引取って世話を為《し》にゃならんが※[#「救/心」、605−9]《なまじい》に云い出してはと庄三郎思案にくれました。お美代は知りませんから此方《こちら》と是から昔物語になりますと云う、ちょっと一と息。

        七

 そこでお美代が火鉢に沢山《たんと》火を取りまして、親子の者を五徳に並べて、たっぷりとした茶碗に茶を入れて出します。有合わしたお菓子を紙に包んで子供にあてがい、
ふみ「おや有難うございます、お構いなすって下さいますな、有難う存じます」
美「おや可愛らしい事ね、女のお子さん、お何歳《いくつ》に成ります」
ふみ「はい七歳《なゝつ》でございます、豐と申します」
美「おゝそう親の無い方《かた》は温順《おとな》しいもんですね、可愛いじゃないか何うも、お少《ちい》さい方《ほう》は」
ふみ「はい男でございまして、三歳《みッつ》で新太郎と申します」
美「そう、温順しい事ね、叔母ちゃん処《とこ》に今夜は最う遅いから泊ってお出でよ、泊っても宜《い》いかい」
豐「あゝお母《っか》ちゃん、あの叔母ちゃんが泊れと仰しゃるから泊るよ、泊っても宜いかえ」
ふみ「いえもう穢《きたな》い姿で……何うかお邪魔に成りませんお台所《だいどこ》の隅にでもお寐《ね》かしなさって、今居ります安泊りのような、あんな穢い処《とこ》に居るものでございますから、只|夜《よ》を明かさしてさえ頂けば……これ、そう戴いて直《すぐ》に食べるものではない、お行儀の悪い……久しくお菓子も買って食べさせる事が出来ませんから……こんな育て様は致しませんが、この頃はがつ/\致しまし
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